• デザイナーが作る古くて新しい焼き芋:冬のオヤツの代表格といえば焼き芋。 あつあつホクホクの焼き芋に、今年はトロトロが加わりました。 焼芋家チョウハシさんが現代に蘇らせた壺焼芋は皮パリッとして中身はトロトロで、まるでスイーツのようです。

    寒い季節に恋しくなる食べ物といえば、そう、焼き芋です。焼き芋屋さんというと、おじさんが軽トラックで販売していているイメージですが、最近はちょっと変わってきているのです。 今回訪ねたのは、神奈川県中郡大磯にある「やきいも日和」。焼芋家のチョウハシトオルさんに、「つぼ焼き芋」について、そして焼き芋の魅力についてお話を伺いました。

  • SHIMICOM)焼芋家になられたきっかけとは?
    (チョウハシ)もともと美術大学でインテリアデザインの勉強をし、卒業後は設計事務所に勤めていました。ところが、今やっているこの仕事は、誰の何のためにやっている仕事なんだろう?と感じるようになり、直接お客様と接点が持てるような仕事もしてみたいなと思うようになりました。それで、地元でデザイナーとして独立するのを機に、いろんな人と繋がれるツールとして、直感的に焼き芋屋は面白そうだなと思ったんです。
  • (SHIMICOM)なぜ焼き芋だったのですか?
    (チョウハシ)やるなら日本の文化を感じるものがいいなと思っていました。焼き芋って、軽トラックでおじさんが販売していて、女性しか食べないようなイメージですよね。また、最近は食の安全も言われるようになりましたが、どこで作られたお芋を使って誰が焼いているのかわからなかったり、値段も意外と曖昧だったりという経験をされている方も多いのかなと。そこをもっと明確にし、僕のデザインを活かして今の時代に合うような、これまでのイメージとは違う現代の焼き芋屋さんを発信できたらなと思ったんです。 「焼芋家」は、「華道家」や「陶芸家」があるように「焼芋家」があってもいいんじゃないかと思い名付けました(笑)。焼き芋一本一本が作品という意気込みで焼いています。
  • (SHIMICOM)どうして「つぼ焼き」でやろうと?
    (チョウハシ)「焼き芋屋をやってみようと思うんだ」と父親に話をした時、「昔はつぼ焼き芋というのがあった」という話を聞いたので調べてみると、今でも常滑(とこなめ※1)の方で焼き芋専用の壷を作っていることがわかりました。それが石焼き芋よりも古くて大正時代からの製法ということを知って、インパクトもあるし面白いんじゃないかと。 一つの壷1回で12本くらいしか焼けないので効率は良くないのかもしれませんが、そこが「つぼ焼き芋」の贅沢さだと思います。それに、年代によって「つぼ焼き芋」を知っている人と知らない人との反応のギャップも面白い。若い人は「何やっているんですか?焼酎ですか?」って(笑)。ここからコミュニケーションが生まれるんですよ。
    ※1・・・愛知県常滑(とこなめ)市の周辺で焼かれる陶磁器を常滑焼(とこなめやき)と呼ぶ。
  • (SHIMICOM)「つぼ焼き芋」とはどういう焼き芋なのですか?
    (チョウハシ)練炭を入れて温めた壷に芋をぶら下げ、約1時間?1時間半かけてじっくり焼き上げます。壷の中は約200℃くらいになっていて、練炭の熱と壷からの遠赤外線で芋を蒸し焼きにするんです。だから中がしっとり、皮はパリッと焼き上がります。また、甘みが濃厚でとってもジューシー。しっとりしているので飲み物がなくても食べられると喜ばれますね。焼いている間は、焦げないようこまめにひっくり返さなければならないので手間はかかりますが、皮まで美味しく食べられる丁寧な焼き方ができます。皮の汚れ等は仕込みの時に全て削ぎ落としていますから、焼き上がりもきれいですよ。
    (SHIMICOM)焼き芋の魅力とは?
    (チョウハシ)シンプルなところですね。何の味付けもせず、大地から引っこ抜いてきた芋をそのまま焼いて食べるって、すごいシンプルだし潔い(いさぎよい)ですよね。今の時代って、プラス、プラスでいろんなものを添加している食品が溢れていますが、それとは真逆なところが、焼き芋は面白いなと思った理由のひとつかもしれません。 あと、焼き芋は栄養価がとても高いんですよ。炭水化物とビタミンがとれるので、ご飯とサラダを一緒に食べている状態なんです。そこに牛乳を合わせたら栄養満点で、完璧な朝ご飯になりますね(笑)。
  • (SHIMICOM)チョウハシさんが心がけていることとは?
    (チョウハシ)わかりやすくて安心で、ワクワクさせるものを作ることです。パッケージにしても、新聞紙よりは可愛らしい包装紙の方がワクワクしますよね。また、「昔は他におやつがなかったから焼き芋を食べた」と言われる方もいますが、焼き芋は栄養価が高く、添加物も入っていないヘルシーな食べ物といった部分をPRすることで、その価値が上がればいいなと思っています。 焼き芋を通じて感じたことがあるのですが、デザインの仕事で大事なことは、お洒落にすることではなく、そのものが持っている本質をいかに人に伝えるかということなのだなと。 当初は洒落た感じとか、若い人がやっているということを売りにしていました。でもお客様からすれば、別にお洒落だから焼き芋を買うのではなく、美味しいから買うわけで。そういう部分を、やればやるほど大事にしたくなりました。4年目を迎えて、味も変わったし、本質的な部分も変わってきたように思います。
  • (SHIMICOM)今後の目標を教えてください。
    (チョウハシ)今まで以上に、安全、美味しい、楽しんでもらえる、という部分をひとつひとつ積み上げていくことですね。焼き芋に関する活動を通じて、食の豊かさがメッセージとして伝わればいいなと思います。まだまだ自分自身も勉強中ですが、知るほどにサツマイモに対して興味が出てきましたし、食に対する考え方も変わってきました。焼芋家の究極の夢としては(笑)、シーズンオフの時は自分でサツマイモを作って、それを焼いて売るということもやってみたいですね。
    (取材を終えて)
    焼き上がったばかりの焼き芋をハフハフと口にすると、しっとり溶けていくような口当り。芋の甘い蜜がジュワッと溢れてきます。「本当に焼き芋!?」と疑ってしまうほど、滋味深いスイーツと化していました。これで栄養価も高いと聞けば、食べない手はありません。 江戸時代からあったと言われる焼き芋。昔ながらの素朴な食べ物といった認識でしかありませんでしたが、今回チョウハシさんが提案する焼き芋に出会えたことで、いろんな意味で焼き芋への見方が変わったような気がします。 いよいよ季節は冬本番。焼きいも?エ?焼きいも、の声が聞こえてくるのが待ち遠しくなりました。
    (クレジット) 取材・文 鈴木ハルカ   写真   H.SUGI