• 2012年7月READ特集「五感で感じる涼」 頭がキーンとするほど冷たいかき氷と風鈴で夏を涼しく。 希少な天然氷を使い、削り方にも気を配る三日月氷菓店。 動画では耳から涼しくさせてくれる風鈴の音をお楽しみください。

    2012年7月特集「五感で感じる涼 」
    夏到来。 夏休みに入った小学生たちの姿を見かけるようになると、一気に夏真っ盛り。 ラジオ体操にプール、むせ返るような青草の匂いと昆虫採集、 夏の夜の花火大会、スイカや蚊取り線香と、今でも思い出すだけであの頃に戻ってしまいそう。 もし夏の記憶を呼び覚ますスイッチがあるとしたら、 それは音や視覚、匂い、味覚といった 私たちの五感の中にあるに違いありません。 今月のREADは、そんな夏の記憶を呼び覚ますものの中から とっておきの涼しさを感じさせてくれる「かき氷」を取り上げます。
  • 天然氷のかき氷に秘めた熱い思い

    最近、かき氷が大ブームです。女優の蒼井優さんによるかき氷の本が発行されたこともあり、かき氷は昔ながらのおやつの域を超え、今や立派なスイーツとしての地位を確立しました。話題のかき氷を目指して、全国を食べ歩くかき氷通までいるほどです。 今回訪れたのは、千葉県柏市にある「三日月氷菓店」。ふわふわとした優しい口当りと、氷とは思えない口溶けのよさが、かき氷ファンの心を掴んでいます。そんなかき氷を作り出した店主の池田佳如さんに、かき氷に対する思いとこだわり、そして稀少な天然氷を使う理由を伺いました。

  • 人が集まる場所を作りたい

    (SHIMICOM)なぜかき氷屋さんになろうと? (池田)子どもの頃、祖父母のいる富山に遊びに行くと、毎回必ず通うかき氷屋があったんです。そこは一年中かき氷があり、冬になると焼き芋なんかも出ていました。それから自分も大人になり、何か自分が本当にやりたいことを仕事にしたいと考えていた時に、その富山のかき氷屋のことをふと思い出したんです。もちろんかき氷そのものも大好きだったんですが、その店は小さい子どもからお年寄りまで、いろんな人が集まる場所だったんですね。そういう、美味しいかき氷を囲んで、たくさんの人が集まるような場所を地元で作りたいなと思ったのが、お店を始めたきっかけです。

  • 試行錯誤の末に生まれた食感

    (SHIMICOM)日本全国のかき氷を食べ歩いたそうですね。 (池田)全国各地にかき氷の有名店はたくさんありますが、関東・関西を中心に僕なりに気になった店を回りました。食べ歩いてみて、「かき氷といってもよくまあこんなにあるものだなあ!」と衝撃を受けましたね(笑)。まず、氷の削り方ってお店によってまるで違うんです。どちらかと言うと、関西の方が削り方が軽く繊細な印象があります。京都のあるお店はとっても繊細な軽い氷で、綿雪のようでした。「氷がこんなことになるのか!」と感激したのを覚えています。そうやって各地のかき氷を食べ歩いていくうちに、自分の店ではこういうかき氷を提供したい、というイメージがだんだんと定まっていきました。

    (SHIMICOM)こちらのお店のかき氷の特長は? (池田)氷の口当りと見た目に関して一番力を入れています。軽くて繊細な口溶けを目指していますね。削り機の刃は鍛冶屋にお願いして、特注で作ってもらっているのですが、刃の手入れは4年目の今でも勉強中です。自分で手入れをして刃を作っていくのは本当に難しいですね。下手に研げばいい具合に削れませんし、逆に研ぎ過ぎると僕のイメージに近いかき氷にならない時もあるので、未だに日々模索しています。氷は、日光の「三ツ星氷室」という伝統ある氷室の天然氷を使っています。

  • 天然氷の存在を知って欲しい

    (SHIMICOM)どうして天然氷を使おうと? (池田)一般的な人口氷は純氷と呼ばれるんですが、味に関して両者に明らかな違いがあるかというと、正直わかりません。ただ、なぜ天然氷を使っているのかと聞かれると、僕の場合は天然氷という文化に興味を持って欲しいなと思ったからです。 かき氷を食べ歩いている時、天然氷のかき氷屋というものを見つけて「天然氷って何?」と思い調べたところ、昔ながらの製法で、ものすごく手間をかけて作られる氷だということを知りました。湧き水を氷池に引き、冬の寒さで自然に水が凍るのを待ち、それを切り出し、夏まで氷室に貯蔵するという一年がかりの作業です。そこに興味を持ったんです。せっかく自分がお店を持つのであれば、今では少なくなった天然氷という文化も含めて、お客様に紹介できれば面白いなと思いました。 天然氷と準氷に決定的な違いがあるとすれば、天然氷は溶けにくいという点でしょうか。純氷と違ってとても長い時間をかけて凍るので、分子が凝縮されていてすごく固くて溶けにくいんです。飲み物に砕いた天然氷を入れると、あまりに溶けなくて驚きますよ。

  • かき氷が繋いでくれたもの

    (SHIMICOM)日光まで天然氷を仕入れに行かれているとか。 (池田)現在、関東圏にある天然氷の氷室は5軒しかありません。手間がかかることによる後継者不足や温暖化などの問題もあって、天然氷は危うい存在なんです。だからこそ、実際に作っている方の顔を見てやりとりさせていただいたり、多少なりとも作業などを手伝わせていただいたりすると、「いい加減なかき氷は作れないぞ」という思いが強くなります。気持ちの入り方が全然違ってくるので、そこは大事にしたいなと思っていますね。 (SHIMICOM)池田さんにとって、かき氷とは何ですか? (池田)僕とたくさんの人とを繋いでくれるものです。かき氷屋を始めたことによって、氷室の方や多くのお客様など、いろんな人々との繋がりが生まれました。本当にかき氷が好きで食べ歩いている方などが冬でもよくいらっしゃいますし、中には九州から来たという方もいたり。かき氷ファンのすごさを思い知らされますよ(笑)。客層も様々で、学生さんや家族連れも多いです。最初にお店をやろうと決めた時のように、これからもそういったたくさんの人が集まる場所であり続けられたらと思っています。 (取材を終えて) ふわふわの氷は口にした瞬間スッと消えていきます。「綿あめみたい!」と、思わず声をもらしてしまうほど繊細な氷でした。夏場は店の外まで行列ができるのもこれなら頷けます。夏の風物詩、かき氷。目にも涼しげなかき氷で、暑さの中にひとときの涼を求めてはいかがですか?

    取材・文  鈴木ハルカ
    写真      円山正史(円山写真事務所)
  • 夏の陽射しに焼かれて 朝からぐんぐん上がり続けた温度計が 正午には30℃を越えた。 こんな日の午後は、音という音が消えてしまう

  • かき氷屋では、鉄の爪でがっちりと押さえつけられた氷塊が スチール製のかき氷機の上で黙ったまま溶けている。 「氷イチゴ、くださいな」 夏休みの子どもの小さな手のひらの中には 汗びっしょりの500円玉が握られている。

  • かき氷屋さんは、夏のヒーローになる。 氷を回して、カンナの刃で薄く削り取る。 ただそれだけのことなのに 誰にも触らせてはくれないのだ。

  • 大人も子どもも黙って器に盛られて行く氷を見つめる。 その視線の熱量が、かき氷を溶かすとも知らないで。

  • どこからスプーンを入れたらいいのか。 迷いに迷って、氷の山頂下あたりに ぐさっと突っ込む。 とたんに雪崩が起きた。

  • すべてが水に戻り、 いつの間にか、街に音が戻ってくる。