• 特集「アルザス仕込みのコンフィチュール」

  • コンフィチュール。そのお洒落な言葉の響きと見た目の美しさに、つい手に取ってしまう人も多いはずです。数年前に洋菓子店で人気となり、今ではコンフィチュールの専門店も見かけるようになりました。そんなブームの中で一際個性を放っているのが、自家製コンフィチュールの店「Le fruit de l'aurore」(ルビ:ル・フリュイ・ドゥ・ロロー)。こちらは、コンフィチュールの本場、仏・アルザスで修業を積んだパティシエの筒井桃子さんのお店です。旬の果実とスパイス、お酒といった意外な素材の組み合わせから生まれる味が、多くの人々を魅了しています。そんな筒井さんに、フランスのコンフィチュール事情と彼女ご自身が目指すコンフィチュールについて、たっぷりとお話をうかがいました。

  • (プロフィール) 筒井桃子(つつい ももこ)。大阪府生まれ。パティシエ。大手洋菓子メーカーで商品開発に携わった後、都内の洋菓子店勤務を経たのち洋菓子作りを学ぶため渡仏。アルザスのパティスリー「ヴィンテー」や「メゾン・フェルベール」で働き、地方菓子やコンフィチュールを学ぶ。帰国後、2010年に通信販売を中心とした自家製コンフィチュールの店「Le fruit de l'aurore」を開業。現在インターネットでの販売の他、都内ベーカリーへの卸、イベントでの出店も行なうなど活躍の場を広げている。 HP http://www.le-fruit-de-laurore.net/

    (SHIMICOM)コンフィチュールとの出会いについて教えてください。
    (筒井)もともと洋菓子メーカーで商品開発をしていましたが、子供の頃からのお菓子屋さんになるという夢が諦めきれず、お菓子作りを学ぶためにワーキングホリデーで2004年にフランスへ渡りました。その時ホームステイをしたのが、夫婦と1歳3歳5歳の子供がいるご家庭でした。フランスでは、朝食に必ず甘いものを食べるんです。そのご家庭でも、朝食にいつも数種類のコンフィチュールとハチミツ、バター、そしてコーヒーと紅茶、ハーブティが並びました。日本ではひとつの瓶を食べ切るまで次の瓶を開けませんが、あちらでは毎朝5人全員がパンにコンフィチュールを塗って食べるとあっという間に1本消費してしまいますから、何種類もの瓶を一気に開けるんです。そして子供たちがいろんな中から「今日はこれ!」って選んで、嬉しそうに食べる光景がすごく素敵でした。 滞在した仏・アルザスは果物が豊富な土地柄で、どの家でもその時の旬の果物を使ってコンフィチュールを作り、それをご近所同士で交換し合うんです。「これは誰々が作ったものよ」などと、いろんなコンフィチュールを食べることが日常的なんです。そういう環境にいるうちに、コンフィチュールって果物の違いや作り手の違いで味が全然違うし、とても応用の幅があるものだと思うようになりました。偶然にも私が働いたパティスリー「メゾン・フェルベール」(※1)はコンフィチュールの有名店だったこともあり、ますます興味を持つようになったんです。

    ※1・・・「コンフィチュールの妖精」と呼ばれるクリスティーヌ・フェルベール氏が作るコンフィチュールは、パリを始め世界の有名シェフの間でも一目置かれる存在。

  • (SHIMICOM)フランスのコンフィチュールと日本のジャムとの違いとは?
    (筒井)呼び方の違いで、どちらも果物に砂糖を加え加熱して作る保存食ですね。ただ、フランスではコンフィチュールはとても身近な存在で、特に朝食には欠かせません。家庭で作るのが当たり前なので、春夏くらいになるとスーパーの製菓材料売り場には、瓶や鍋、ペクチンが混ざった砂糖などコンフィチュールの材料や器具がずらりと並びます。そして食べる時はパンにたっぷり乗せて食べます。フランスでは、コンフィチュールを乗せて食べるタルティーヌという食べ方の場合、パンは薄く切るので、塗るというより乗せて食べるという感覚に近いですね(笑)。また応用範囲が広く、パンだけでなくチーズやお肉料理にも添えていました。塩気のある料理にコンフィチュールの甘みがアクセントになるんです。アルザスではクリスマスになると、たくさんのドライフルーツとナッツ、そしてスパイスが入った「コンフィチュール・ド・ノエル(クリスマスのコンフィチュール)」をフォアグラに乗せて食べていました。初めは驚きましたが、食べてみたらとても合うんです。フランスにはそういう食文化が昔から根付いているんでしょうね。
  • (SHIMICOM)「コンフィチュールの妖精」と称されるフェルベールさんの印象的なエピソードがあれば教えてください。
    (筒井)彼女の味覚と美的センスはピカイチでしたね。有名店でしたので普段の仕事もすごく忙しいんですが、その上にさらに飛び込みの依頼が入ってくることもあります。納品期限が明日までというような時でも、彼女はいったん素材を決めたら、あとはほんの一時間くらいでササッと作ってしまうんです。しかも完成した味が、最初に想定した味とほとんどブレてないんです。ある時、ケーキ作りで生クリームを味見して「何か足りないな」と思っていたら、「レモンの皮を擦って入れなさい」と言われてその通りにしたら、味が劇的に変わったこともありました。おそらく、素材それぞれの味が全部彼女の頭の中にストックされているから、それらを足したときの味が的確に想像できるんだと思います。 フランスでは、珍しいものや見た目に馴染みのないものは敬遠されがちで、例えば最近フランスで人気のお寿司でも、のり巻きのように黒いものは見た目で敬遠して手をつけない人もいます。でもクリスティーヌは食や味に対する関心が強いので、初めての食材にも躊躇なくチャレンジする人でした。味だけでなくお菓子のデコレーションにおいても、彼女の思う『美しい』がはっきりしているので、チョコレートに掛けたリボンに手が触れて少し形が変わっただけでも、「待ちなさい!」と引き止められて直されたこともあります。そういう細部にまでこだわる姿や彼女のセンスを間近で見ることができて、とても勉強になりました。

    アルザス時代の一枚。写真中央で、フェルベールさんと並んで写っているのが筒井さん。

  • 下準備をした紅玉リンゴにペクチンと砂糖を加え銅鍋で煮る。

  • 甘い香りが漂いはじめ、果汁にもとろみと艶が出てくる。
  • 火を止めたら熱いうちにレードルで瓶に詰めていく。
  • コンフィチュールは瓶の口ギリギリまで詰め蓋をする。
  • (SHIMICOM)「白桃×生姜」「いちご×黒糖」「リュバーブ×干し杏×白ワイン」など、素材の組み合わせがユニークですが、そのアイデアはどこから?
    (筒井)ほとんどが思いつきです(笑)。一般に流通しているお菓子などからヒントを得たものものありますし、黒糖のように自分が好きだから使ったものもあります。逆に、苦手なものを取り入れたパターンもあります。実は私、生姜やミントが苦手だったんです(笑)。でも女性はみなさん、お好きですよね。「じゃあ私でも美味しいと思えるものを作ろう」と。例えばミント、パイナップル、ラム酒、ライムを組み合わせた「モヒート風のコンフィチュール」は、ストラスブールのカフェで知人が飲んでいたカクテルからヒントを得ました。ミントとクラッシュアイスのすごくきれいなカクテルでしたから、飲んだことはないけれどモヒートにはいい印象が残っていて(笑)。カクテルはフルーツを組み合わせていますし、もしかしたらこれもコンフィチュールになるのではと思い作ってみました。 リュバーブのジャム『リュバーブ×干し杏×アルザス白ワイン』は思い出の一品で、“ドライフルーツを使ったコンフィチュール”に生まれて初めて出会ったのがこれでした。その美味しさ驚きつつ「ドライフルーツを使うなんて変わってますね!」と言ったら、クリスティーヌに「あなたも十分変わっているから、これはコンフィチュール・ド・モモコ(モモコのコンフィチュール)ね」って言われて(笑)。だから瓶のラベルにも小さく「コンフィチュール・ド・モモコ」と入れているんです。
  • (SHIMICOM)商品の傾向として、大人向けの味を意識しているのですか?
    (筒井)特に大人向けということはありません。胡椒やシナモンなどのスパイスを加えているものもありますが、小学生くらいのお子さんであれば、食べてもらえるのではないでしょうか。驚いたことにフランスの子供たちってシナモンクッキーが大好きだったり、おやつにオリーブを食べたり、普通にマスタードを舐めたりもするんです。でもそれを見て「この子たちはこうして小さい時からいろんな味を覚え、味覚の幅を広げていくんだな」って。刺激さえ強くなければ子供でも美味しいものってわかるんです。だからスパイスを使ったジャムも、「アクセントになって面白い味だな」と思ってもらえたら嬉しいです。とびきり美味しいものを食べると「ハッ」と目覚めるような感動があります。そういう、目が覚めるようなインパクトのある味、印象に残る味を作り出せたらいいなと思っています。 私自身柑橘系が好きで、柚子、金柑、八朔など日本ならではの果物を使ったコンフィチュールも作っています。果物に関して言えば、同じ品種でもフランスと日本とは味や食感が違うこともあって、それを見極めて新しいフレーバーを作るのは面白いですね。ひょっこりアイデアが浮かぶので、自分でも何がヒントになるかわかりませんが(笑)、これからもみなさんに喜んでいただけるコンフィチュールを作っていきたいですね。
  • (クレジット)
    取材・文 鈴木ハルカ  
    写真   嶋並ひろみ(嶋並写真事務所)
    <筒井桃子さんの12月おすすめのコンフィチュール>
    (商品名) コンフィチュール・ド・ノエル(クリスマスのコンフィチュール)¥1,000 (キャプション) マルメロをベースにドライフルーツとナッツをたっぷり使ったコンフィチュール。ちょっとスパイシーで、フォアグラやチーズにもとてもよく合います。 (商品名) マルメロ×薔薇のジュレ ¥850 (キャプション) マルメロに薔薇の香りと花びらを加え、よりフェミニンに仕上げました。紅茶に入れたり、パンケーキに添えるなど、”薔薇シロップ”のような感覚でどうぞ。 ※ご購入はこちらから(http://marche.le-fruit-de-laurore.net/)→リンク