• 一瞬の光を、ガラスの器に閉じ込めて

    ガラス工芸の中でも、サンドブラストはガラスの表面を削り模様や色合いを作り出す独特なアートです。中でも何重にも色を重ねた被せガラスを使ったものはゴージャスで、周りの空気を変えてしまうほどの存在感を放ちます。 そんなサンドブラストの世界において、ダイナミックさと繊細さを備えた独自の作風で知られるのが、サンドブラスト・ガラス作家の澤 玲郁子さんです。「光とガラスのアーティスト」として表現活動をされる澤さんの原点にあるものとは一体何でしょう?。

  • SHIMICOM)まず、サンドブラストについて教えてください。
    (澤)ガラス工芸の一種で、その中でも最も新しい技法のひとつです。砂(sand)を送風する(blast)というのが語源で、エアーコンプレッサーという機械を使って砂を吹き付けるのが特長です。大正時代に日本に入ってきて、障子の曇りガラス部分の間仕切りなどにこの技法が使われるようになったようです。私は被せガラスといういくつかの色が層になっているガラスを削り、色の濃淡をデザインしています。
  • (SHIMICOM)それがなぜサンドブラストの道に?
    (澤)「明かりを作る」作業は、手で触れられないし、映像や写真にも残らないわけです。たとえば幕開けからラストまで300シーンくらいの照明プランを作っても、終われば影も形もなくなってしまう。そこに物足りなさのようなものを感じていました。また、舞台作りは全部共同作業です。演出家、振り付け師、音響、照明という人たちがいて、みんなで作り上げる。その面白さはあるのですが、私は自分ひとりの表現というものをやりたいと思うようになっていました。そんな時にちょうどサンドブラストと出会ったんです。 仕事場の近くで偶然「サンドブラスト体験」という看板を見つけて「なんだろう?」と思い、入ってひとつ作ってみたらとっても面白かったんです。その場で「これは仕事にできる!」と思うくらい(笑)。それでその教室で基本的なことを習い、とうとう自分でエアーコンプレッサーを買ってしまいました。もちろん高かったですけど「自分ならどういう作品が作れるかやってみたい」と思って(笑)。一番決定的だったのは「この機械と相性がいい」と感じたこと。そうでなかったら「ああ面白かった」だけできっと終わっていましたね。
  • SHIMICOM)“機械との相性”といいますと?
    (澤)舞台照明はものすごくいろんな機械を使うんです。しかも劇場ごとに全部違うので、そういう意味では私は世界中の照明の機械を触ってきました。その経験から、機械には相性があると思っています。「なんか違うなあ」とか「この機械とは仲良くできるぞ」という感覚です。作品は自分の気持ちを表現するものです。でも、機械との相性が悪いとギクシャクしちゃう。だから自分が思うように操作できるかどうかがすごく大事なんです。その点この機械は相性が良かったんです。
    (SHIMICOM)舞台照明とサンドブラストに通じるところがある?
    (澤)光と影ですね。舞台照明もサンドブラストも、どちらも光をデザインするものですから。サンドブラストも、もし光が入らないものであればあまり魅力を感じなかったかもしれませんね。 昔から光そのものがすごく好きでした。木漏れ日や川の水面がキラキラしているところ、風が吹いて葉っぱの影が揺れる光景などを見ていると心が安らいで、すごく幸せな気持ちになるんです。そんな風に、固定されているものにふわっと風が吹いて光と影が揺れた時の「揺らぎ」を感じる作品を作りたい、という思いがいつもあります。ちょっと頼りなくて、危(あや)うくて、儚(はかな)いけど愛おしいような。風と光と影は、私の根っこ、原点だと思いますね。
  • (SHIMICOM)どこから発想を得るのですか?
    (澤)実際に自分が見たことや体験したことを題材にします。だから国内、海外問わずしょっちゅう旅行には行きますね。半分遊びで、半分取材です(笑)。海や空や山など自然の風景を見るとすごくインスピレーションをもらえるのです。 実はこちらの作品(左写真)は、以前舞台衣装をやっていた時の「蜘蛛歩き」というミシン刺繍のテクニックを入れたんです。糸でやっていたものをガラスで表現しました。最初にトルコの花を入れて、もう少しエキゾチックな雰囲気のものを入れたいと思った時にこの刺繍を思いつきました。今までの経験はすべて無駄になっていないんです(笑)。
  • (SHIMICOM)作品作りにおいて最も大切にしているものとは?
    (澤)やはりオリジナリティですね。いかに自分らしいか。何をどう表現するかというところに一番時間をかけています。どの題材がこの器に一番合うか、この器でしか表現できないものはなんだろうと、とことん突き詰めていく。それが私の創作の原点にあると思いますね。
    (取材を終えて)
    1mmの何分の一の世界に全神経を研ぎすまして制作をしているという澤さん。舞台照明での経験を通して、一瞬の光と影が織りなすシーンに魅了されてきた彼女だからこそ、清流のきらめき、若葉の輝き、風に揺れる大輪の花など一瞬の光景をガラスの器に表現できるに違いありません。「サンドブラストは間口が広くて、奥が深い」。そう語る澤玲郁子さんのワン・アンド・オンリーのガラス作品に、私たちの心は大きく揺り動かされます。
    (展示会情報)
    『澤 玲郁子&さわアートグラス工房展』 期間:4月30日(水)?4月7日(日) 時間:10:00?17:00(最終日は15:00まで) 場所:うらわ美術館(さいたま市浦和区仲町2-5-1ロイヤルパインズホテル3F、048-827-3215) 入場料:無料
    (クレジット)
    取材・文 鈴木ハルカ  
    写真   円山正史(円山写真事務所)