• WONDER GIFT ~自分の名前を音楽に変える紙巻きオルゴール~

    紙に穴を開けて作った自分の名前が、 その紙巻きオルゴールを通った瞬間に 美しい音楽に変身しました。 この世に生まれた時、ひとりひとりに名前が贈られたように 音楽もまた、ひとりひとりに用意されていたのです。 さあ、紙巻きオルゴールの小宇宙へ出かけましょう。

  • 紙巻きオルゴールについて
    オルゴールという名称は、ドイツ語の「オルガン」を意味するorgelに由来する。 中世ヨーロッパの教会では、時間を知らせるために朝夕晩に鐘を突いた。 17世紀に入り、スイスの時計職人が鐘の代わりに調律した金属片を用いることで小型化されたのが今のオルゴールの原型と言われ、時計などに組み込まれていった。
    一方で、オルガン自体は古くからあるもので、主に教会での演奏に使われてきた。 これはリードと呼ばれるパイプに圧縮した空気を送り込んで音を出す仕組み。 自動オルガンは、鍵盤を指で押すかわりに紙に穴をあけて演奏情報を記録して、 折畳んだ紙の穴の開いた部分になると音が出る仕組みで、演奏の自動化を実現した。 紙巻きオルゴールとは簡易小型化されたもので、カード式オルガニートと呼ばれる。
  • 名前の形に穴を開けた紙を、オルゴールの中に通すと不思議な響きが流れ出しました。「これが、私の名前の音楽ですか?」。紙巻きオルゴールの音には、思わず聴き惚れてしまう不思議な魅力があります。穴を開けた紙を取り替えることで曲目を変えることができる仕組みに着目し、まるで「文字が音楽に変わる」ような世界を作り出したのが、「trois(とわ)」の杉山三さんです。
  • (SHIMICOM)「紙巻きオルゴール」との出会いについて教えてください。
    (杉山)昔から僕は細かい絵を模写することが好きで、趣味でよく描いていました。また、ギターやバイオリン、アコーディオンなど音の鳴る楽器にも興味があり触っていた時期があります。そんな中で、当時好きだった女の子にプレゼントとして贈るものを探していた時、たまたまインターネットでみつけたのが紙巻きオルゴールでした。紙に好きな絵が描けるし、一緒に音も贈れるから「これはいい!」と、すぐに注文しました。ところが、業者と勘違いされて50個も届いたんです。しかも、贈ろうとした矢先にその女の子と仲が悪くなりプレゼントできなくなってしまいました。振られた残念な思いと、段ボール箱いっぱいのオルゴールを前に途方に暮れましたね(笑)。それが僕と紙巻きオルゴールの最初の出会いです。
  • (SHIMICOM)「紙巻きオルゴール」とはどんなオルゴールなのですか?
    (杉山)普通のオルゴールは、シリンダーという凹凸のついた円柱が櫛歯(くしば)という金属板を弾いて音を鳴らす仕組みで、ひとつのオルゴールが奏でるのは一曲のメロディーだけです。紙巻きオルゴールは、穴の開いた紙をオルゴールの中に通すことで音が鳴る仕組みになっています。ですから、ひとつのオルゴールで何パターンものメロディを鳴らすことができます。
    (SHIMICOM)それがどうして現在の活動へと?
    (杉山)紙巻きオルゴールは、音とビジュアルを同時に成立させることができて、しかも回すことで時間軸が生まれるという映画的な手法が面白いと思いました。また、自分の絵をこの紙に載せたら、いろんな人が見てくれるかな?という思いもあって(笑)。
  • (SHIMICOM)それが「trois(とわ)」というブランドになった?
    (杉山)「trois(とわ)」は「Take Relief, Or Incentive Spectacles」という言葉の頭文字で、「安心と好奇心を満たす」という意味です。オルゴールの音色って安心感を与えますよね。また「自分の名前ってどういう音になるんだろう?」という好奇心も刺激されると思います。このプロダクトを通して、安心と好奇心の両方、もしくはそのどちらかを満たしていただければいいなとの思いが込められています。 また、子どもから大人までを対象にしたワークショップも行っています。アルファベットや平仮名のテンプレートを使って、紙に自分の名前や好きな言葉の穴を開け、言葉を音に変えて聴いてみようというものです。 個人のアートではなくプロダクトにした理由は、紙巻きオルゴールの楽しさを自分だけのものにしないで、解放したいと思ったからです。作る楽しみをみんなで分かち合うことで、この世界にもっと広がりが生まれると思いました。またテンプレートを開発したのも、これがあれば汎用性があって、参加者一人一人が世界にひとつだけの音を作れると思ったからです。
  • (SHIMICOM)音とビジュアルを合体させる発想はどこから生まれたのですか?
    (杉山)もともと僕は文化的雑食タイプなんです。たとえば、古典絵画を見ながら初音ミクのことを考えていたり、そういう混沌としたミクスチャー文化の中でずっと生きてきました。だから、オルゴールという音を鳴らすものと、ビジュアルをクラッシュさせたら面白いのではと。自分の中で「変なモノを見たい」とか、生物学的に言えば混血のような「何か違うモノが生まれる瞬間を見たい」という欲求が常にあります。その思いがこの紙巻きオルゴールに現れたという感じです。
    (SHIMICOM)ワークショップでの反応はいかがですか?
    (杉山)テンションがマックスにあがりますね。3歳くらいの子でも、親の手をはねのけて自分でやりたがるくらい(笑)。もちろん大人の方もいい反応を返してくれます。そういう反応を見ていて気付いたのですが、「人間はみんないくつになっても成長していたいのだな」と。近年ワークショップ流行りですが、「自分でそういうモノを作れるようになりたい」とか、「自分にもできそう」という部分で人は動くのだと思います。その「できそう」と思うところに自分が手を差し伸べてあげて、「できた」と満足して帰っていただきたい。ワークショップを通して、今までできなかったことができるようになる、という成長する喜びを提供できたらと思っています。
  • (SHIMICOM)何か印象的なエピソードはありますか?
    (杉山)バースデーソングは最後の贈る相手の名前の部分が空いていて、相手の名前を打てば、その名前の音が鳴るような仕掛けになっています。曲の後に自分の名前が鳴るオルゴールなんて他にはないので、きっと喜んでくれると思います。 ある時、フランク・ロイド・ライト(※1)の建築の中でワークショップを開いた時、参加者の中に教室の窓枠の形を模して紙に穴を開けた方がいました。その穴の音が、ものすごくリズム感のある音になったんです。「これはフランク・ロイド・ライトの音楽ですね!」と盛り上がったことがあります。 また、サプライズでプロポースの言葉をオルゴールに通してプロポースされた方もいました。もちろん見事に成功しましたよ(笑)。
    ※1・・・アメリカの建築家。「近代建築の三大巨匠」と呼ばれる。
  • 金羊社鵜の木クリエイティブワークス朗読家日記
    (SHIMICOM)活動を通して大切にされている事とは?
    (杉山)僕の中で「祝福」というのは、実はすごく大きなテーマなんです。震災があり、いつ命に関わることが起こるかわからない不安な時代です。だからこそオルゴールの音色で安心を感じてもらいたいというのもあるし、「生まれてきてよかったのかな?」という疑問すら持たせないくらい「生まれてきてよかったね」と圧倒的な祝福をするということを、このプロダクトを通じて多くの人に体験してもらいたいと思っています。
    (今後の活動予定)
    5/26(日) 第3回東京蚤の市にて troisオルゴールワークショップ・物販 予定。 (参加要予約) 6/11(火)?7/11(木) 「ミエルレコード × OTOWA展(仮)」@金羊社鵜の木クリエイターズギャラリー 「オルゴール × 漫画」のコラボレーション。 参加予定作家: ウラモトユウコ/オカヤイヅミ/角裕美 萱島雄太/山本美希/マシマロ制作部 (敬称略。五十音順) 詳細→ http://www.kycreative.jp/等にて後日告知。 6月中 詩の朗読とtroisオルゴールのワークショップ「おとのにおいvol.2(仮)」開催予定。 (参加要予約) 朗読家:岡安圭子/料理研究家:飯塚有紀子 前回の様子→ http://okayasukeiko.chicappa.jp/blog/?eid=21
  • (取材を終えて)
    「この文字はどういう音になるんだろう?」。穴を開けた紙を前にムクムクと好奇心が湧いてきます。そして自分の手でオルゴールを回し、音が流れた時の驚きと喜び。これこそ、ワークショップに集まる子どもたちが感じるものなのでしょう。大人の私が、しばし童心にかえって遊んでしまいました。また、アルファベットや平仮名を音楽にするという斬新さに、懐かしさもしっかりと加えてあるところが杉山さんのこだわりです。そのひとつが、レトロチックなイラスト。よく見るとどこか意味ありげで、想像力を掻き立てられます。この小さなオルゴールには、楽しい仕掛けがいくつも隠されているようです。それを自分で見つけながら遊べるところが、紙巻きオルゴールのもうひとつの楽しさなのかもしれません。
    (クレジット)
    取材・文:鈴木ハルカ  
    写真:円山正史(円山写真事務所)