• 雨が待ち遠しくなる傘

    雨の日は気分が落ち込んだり外に出かけるのも億劫になりがちです。でも、そんな気分をかき消してくれるのがカナダ出身のデザイナー、ディチェザレさんのユニークな傘たち。小雨が降る公園で、ディチェザレさんにお話を伺いました。

  • (プロフィール)

    John DiCesare(ジョン ディチェザレ)。デザイナー。
    カナダ トロント出身。彫刻美術学部を卒業後、トロントにあるアートギャラリーやブロンズアートスタジオにおいて長期間に渡りブロンズアーティストとして多様な彫刻プロジェクトを担う。十余年前、傘とパラソルのデザインシリーズを構想。日本の傘文化に感銘を受け、2000年に来日。傘とパラソルのデザインを研究、制作開始。巧妙な技術が織り込まれた、独創性に富んだ シリーズを完成させる。HP http://www.ddi-parashell.com/

  • (SHIMICOM)最初に傘のデザインを始めたきっかけは?
    (ディチェザレ)子どもの頃から彫刻に興味があり、カナダの大学では彫刻の勉強をしました。ある時、日本に住んでいる写真家の友達が、「アートに関しては日本は長い歴史があるよ」と、日本に来ることを勧めてくれたので2000年に来日しました。仏像巡りなどで各地を回りましたが、驚いたのは、日本では誰もがみんな傘を差すということでした。雨の日も、晴れの日でも(笑)。それを見て「傘を作りたい」という気持ちが強くなりました。
    実は、彫刻を学んでいた学生の頃から貝殻の形をした傘の発想があって、「いつか必ず現物を作りたい」といつもスケッチをしていました。ユニークな傘のフォルムを作ることと彫刻を作ることは、私にしてみればそんなに変わりはありませんでしたので。
  • (SHIMICOM)カナダでは傘を使わないのですか?
    (ディチェザレ)カナダには傘文化はありません。日本と違って梅雨がありません。雪は多いけれどレインコートを着ます。それに、どこに行くにも車で移動しますから、傘を使う必要がないのです。 日本人はいつも傘を差しているから驚きました。特に女性の日傘はカルチャーショックでしたね(笑)。外国ではほとんど差しませんから。他の国と比べると日本人はみんな傘を大事にしています。いい傘を持ちたいという気持ちがある国だと思います。
  • CROSS 晴雨兼用雨傘(CROCODILE JACQUARD 2TONE BLACK&IVORY)
  • (SHIMICOM)傘のどこに魅力を感じたのですか?
    (ディチェザレ)大学で日本のアートの歴史も勉強しました。たとえば葛飾北斎とか歌川広重とか。浮世絵の中でも、よく傘はモチーフになっています。海外から見ると、芸者も必ず傘を持っているイメージがあります。そんな風に、日本には1000年以上も前から傘の文化が根付いているところに興味を持ちました。
    さらに傘職人と会って、彼らが全て手で作っていることに驚きました。現在では試作品の型を作る時、CADやCGを使いますし、生産は請負会社に依頼します。ところが傘職人は100%全部手で作っていましたので、私もそこからインスピレーションを受け、最初の試作モデルはパーツから全て手作りしました(笑)。
  • (SHIMICOM)傘職人との出会いから始まったんですね?
    (ディチェザレ)最初の頃はコラボレーションしてくれるメーカーを探すため、いろんな傘の会社を回りました。断られてばかりでしたが、一社だけ「作ろう」と言ってくれ、そこからの紹介で京都の洋傘職人に辿り着きました。職人に直接会って傘作りを見せてもらった時、全部手作りしているところに感銘を受け、ぜひ彼らと一緒に作りたいと思いました。
    職人はすぐにOKはしてくれませんでしたね(笑)。「このデザインでできますか?」と聞くと、「難しい」と言われました。難しいというのは、「コストがかかるから商品になっても価格が合わない」とか、「試作モデルを見ると作ったことがない形だから作れるだろうか?」っていう意味でしたね。でも彼らを説得し、ついには作ってもらえることになりました。私の試作モデルを見て「この人頑張ってるからやってみようか」と思ってくれたのでしょう。
    傘のスケッチは10年以上前からしていますが、試作モデルから商品にするまでは2年かかりました。独特な形ですから実際に作るのは難しかったのです。
  • PARASHELL MAGIC GIRL 日傘(APPLE GREEN)

  • (SHIMICOM)個性的なデザインは、どこから発想を得るのですか?
    (ディチェザレ)ほとんど自然物からインスピレーションを得ています。たとえば「パラシェル(※1)」はカタツムリやヤドカリがヒントになっています。これらの生物は貝殻を持っています。だから「貝殻みたいな傘を人が差したら面白いんじゃない?」と思いました。桜の花びら、カボチャ、スパイラル型、『となりのトトロ』で差している葉のような傘のアイデアもあります。
    自然の要素を取り入れると、とてもエレガントな形になります。私はカナダの牧場で生まれ育ち、子どもの頃から森や動物など自然に慣れ親しんできました。そういうところも関係していると思います。

    ※1・・・デイチェザレ氏が初めて手掛けた日傘のシリーズ。「パラソル」(傘)と「シェル」(貝殻)から名付けた。(右写真)

  • (SHIMICOM)日本人と傘について、どう思いますか?
    (ディチェザレ)日本ではみんな傘を大事に使うし、普通にアクセサリーとしても使っていますね。梅雨があるから雨傘は必需品です。また美白という言葉があり、女性はみんな日傘を差します。だからカナダ、アメリカ、ヨーロッパと比べても日本人は傘との関係がとても深いと思います。日本の方々が私のデザインしたユニークな傘を喜んで使ってくれるのは、そのような傘文化のベースがあるからでしょう。
    (SHIMICOM)傘をどういうシーンで使って欲しいですか?
    (ディチェザレ)日傘の「パラシェル」や「桜(※2)」はエレガントなイメージですから、ガーデンパーティや結婚式にもいいと思います。でも、どの傘も日常で普通の傘と同じように、ファッションに合わせて使って欲しいです。雨の日は暗いムードになりがちですが、傘を差すと、気持ちが明るく楽しくなって欲しいです。傘を差している人を見た人も「今日変わっている傘見たな」とか「面白い、何それ?」と、彫刻の作品を見ているような反応をしてくれたら嬉しいです。
    これらの傘には私の想像性を込めていますので、百貨店の傘売り場で、ギャラリーにいるような感覚で、それを感じて欲しいです。

    ※2・・・桜の花びらをモチーフにした商品。(右写真) 

  • (SHIMICOM)傘でライフスタイルがどう変わるのでしょうか?
    (ディチェザレ)モノ作りに関しては、日本は他の国にはない素晴らしい文化をたくさん持っていると思います。日本の傘作りの職人は少なくなっていますが、この傘を所有することで、手作り文化の素晴らしさを改めて感じて欲しいです。きちんと作っているアイテムを自分のライフスタイルに取り入れたら毎日が楽しいと思います。傘から私と職人の情熱を感じて欲しいし、大事に使って欲しいです。商品になるまでとても時間がかかっていますから。
    (SHIMICOM)ディチェザレさんにとって、ズバリ傘とは?
    (ディチェザレ)自分のパーソナル建築です。私は子どもの頃から、傘を差すのが好きでした。中の骨組みを見て「何これ?」と思ったし、差せば外から中が見えなくなるでしょう?このパーソナルスペースという感じが大好きでした。 傘は雨や紫外線から守ってくれるだけでなく、アクセサリーにもなります。建築とファッションの間のものなので、両方考えないといけません。また、実用面だけではなく、ファッションのセンスを取り入れないとつまらないものになってしまいます。逆にデザインだけ良くても、実用的でないと商品になりません。そこを考えるのが面白いですね。これからももっといろんな傘を作っていきたいです。
  • PUMPKIN 晴雨兼用雨傘(IVORY CROCODILE JACQUARD WITH WHITE HANDLE)

  • (取材を終えて)
    カナダ人デザイナーの独創性を、日本伝統の傘作りの技術が支えることで、これまでにない新しい傘が生まれました。自然をモチーフにしたという丸みを帯びた可愛らしいフォルム、黄色やオレンジのビタミンカラー。差している本人だけでなく、目にする人みんなの気持ちを弾ませてくれるディチェザレの傘は、億劫な雨を待ち遠しい雨に変えてくれそうです。さあ今度の雨の日は、どこへ出かけましょうか?
    (クレジット)
    取材・文:鈴木ハルカ  
    写真:円山正史(円山写真事務所)