• 最近よく「サードウェーブコーヒー」という言葉を目にします。
    昭和の高度経済成長期のレギュラーコーヒー・ブームを第一次。
    平成に入ってのバリスタの登場を第二次。
    そして数年前、米国サンフランシスコから始まったのが「サードウェーブコーヒー」、
    産地ごとに異なるコーヒー豆の個性を楽しむ飲み方を言うのだそうです。
    これって、ワインの楽しみ方にそっくりな気がしますが・・・

  • 特集「ワインのように、コーヒーも個性で選ぶ」

    これまでのコーヒーの価値観をガラリと変えてしまうようなコーヒー豆専門店が現れました。「コーヒーをワインのように楽しむ」がコンセプトのこちらのお店「TAKAMURA WINE & COFFEE ROASTERS」では、数種類あるコーヒーがすべて試飲可能。産地や農園による豆の違いをその場で体感できるのです。代表の松誠さん、ロースターの山田彩音さんに、コーヒーとワインの共通点について、またコーヒーへの思いをうかがいました。

    (プロフィール)山田彩音(やまだあやね)。兵庫県生まれ。ロースター、バリスタ。タカムラにワインの営業として入社後、大手コーヒーショップにて勤務。コーヒー事業の立ち上げと共に、会社に復帰する。店舗ではコーヒー豆の焙煎と、バリスタを兼務。 HP http://takamuranet.com/

  • (SHIMICOM)コーヒー豆の販売は、どういう思いで始めたのですか?

    (松)僕はワインもコーヒーも好きなんですが、昔から有名なレストランなどでも最後に出されるコーヒーがまずくてガッカリさせられることがよくありました。 数年前からコーヒー業界に「コーヒーをワインのように語ろう」という動きが出てきました。うちはもともとワインの輸入、販売が専門でしたので、「これまで培ってきたワインの知識をコーヒーに活かせるのでは」と使命感のようなものを感じまして、昨年3月にワインとコーヒー豆の専門店として改装しました。

    (山田)大抵、ロースターはコーヒー豆の焙煎だけ、バリスタはコーヒーの抽出だけ、と分業されがちですが、うちでは生豆の仕入れから、豆の焙煎、バリスタまですべて私が一貫してやらせてもらっています。

  • (SHIMICOM)コーヒーとワインの似ているところとは?

    (山田)コーヒー豆と接するようになって、コーヒーをワインのように表現できることは実感しています。例えば「ケニアのコーヒー」を説明する場合ですと、「華やかな香りがあって、後口はレーズンや重いベリーのような甘み。割と質感が重く、ボルドーワインのようなイメージ。浅煎りなのでより酸味が感じられる」といった具合になりますから、本当にワインのようですよね(笑)。

    (松)実はコーヒー業界の流れも、20~30年前のワイン業界とそっくりなんです。昔は「フランスワイン」でひとくくりだったのが、「ボルドーワイン」といった地方名で呼ばれるようになり、次にその地方の中の村単位になり、そこから生産者レベルになり、その中でも「この区画のスペシャルセレクション」といったワインまで出てくるようになりました。今、コーヒー豆は一般的にはまだ「ブラジルコーヒー」、もしくは「ナントカ農園のコーヒー」までですが、この先、区画レベルでのコーヒー豆も出回るようになると思います。

  • (SHIMICOM)こちらのスペシャルティコーヒーの特徴を教えてください。
    (山田)「サードウェーブコーヒー」というのは、産地とどう繋がるかとか、産地の個性を大切にするという考え方のことだと思っています。うちの店では、自分たちが飲んで美味しいと思えるもの、産地の個性がハッキリと感じられるものを基準に、常時7アイテムを揃えています。 焙煎に関しては、「浅煎り、中煎り、深煎りのラインナップを作ろう」ではなく、「この豆のこの要素を引き出したいから浅煎りにしよう」という意識でやっています。ですから、豆の持っている要素に合わせて焙煎度合いも、焙煎方法も変えています。まず小さいテストロースターでいろんな焼き方を何度も試し、豆の性質や特徴をきちんと把握したうえで、コーヒー豆のよさを一番表現できる焙煎具合を探るという感じですね。

    【スペシャルティコーヒーとは】
    (社)日本スペシャルティコーヒー協会によると、その定義として、
    ・消費者の手に持つカップの中のコーヒーの液体の風味が素晴らしい美味しさであり、消費者が美味しいと評価して満足するコーヒーであること。
    ・カップの中の風味が素晴らしい美味しさであるためには、コーヒーの豆からカップまでの総ての段階に於いて一貫した体制・工程で品質管理が徹底している事が必須である(From Seed to Cup)。
    ・具体的には、生産国においての栽培管理、収穫、生産処理、選別そして品質管理が適正になされ、欠点豆の混入が極めて少ない生豆であること。
    ・そして、適切な輸送と保管により、劣化のない状態で焙煎されて、欠点豆の混入が見られない焙煎豆であること。さらに、適切な抽出がなされ、カップに生産地の特徴的な素晴らしい風味特性が表現されることが求められる。 など、いくつかの要件を挙げている。

  • (SHIMICOM)最新のロースターマシーン(※1)を導入されているそうですが?。
    (松)身体に浸透してくるような味のコーヒーを作りたいという想いがありました。今までのコーヒーは、焙煎で豆を焦がしているので、自分の中では「苦い」「重い」という感覚がありました。それって、産地や豆の個性を味わうというよりも、焦がし加減を味わっているようなものです。
    でも僕らは、できるだけ焦げ感をなくして、コーヒー豆が本来持っている味わいを引き出したいと思っています。それを一番的確にできるのがこの機械なんです。焦がすのではなく熱風で焙煎するので、ムラなく豆全ての面に熱を加えることができます。料理に低温調理という方法がありますが、あのイメージです。昔から主流の直火焙煎の場合、豆の芯まで焼こうと思ったら当然外は焦げてしまいます。でもこの機械でやると、見た目は一見生焼けのようですが、きちんと芯まで熱が通った豆ができあがります。

    ※1・・・ローリングスマートロースターというアメリカ製の最新技術を搭載した焙煎機を導入している

  • (SHIMICOM)山田さんがコーヒー豆の焙煎で心がけていることとは?
    (山田)私は豆のいいところを引き出して、輝かせたいと思っています。焙煎を突き詰めれば、お店でのカッピング(※2)が最終形ではなく、お客様がご自宅のコーヒーメーカーで淹れても「メチャクチャ美味しい!」と思ってくださるようにするのが私の役目だなと。ですから、いつも最終形の味わいを想像して焙煎するように心がけています。
    抽出についても、フレンチプレス、ペーパーフィルター、エスプレッソ、どれがベストなのかをいつも探っていますね。とにかく何度も試しながら覚えていくんです。

    ※2・・・ワインを選ぶ上でのテイスティングのように、コーヒーの甘味や酸味、苦味、余韻などといった味や香り、 品質の良し悪しを客観的に、総合的に判断するこ

  • (SHIMICOM)お客様の反応はいかがですか?。

    (山田)コーヒーの本質を味わいたいと思って来てくださる方が増えてきているように感じます。「コーヒーにミルクや砂糖を入れないと飲めなかったけど、ここのコーヒーは何も加えずストレートで飲みたい」と言ってくださるお客様がとっても多いんですよ。

    (松)僕はいつもスタッフに「焙煎ではなく料理だと思ってほしい」と言っています。昔と違い今は流通がよくなり、コーヒー豆も鮮度の高いものが手に入るようになりました。コーヒー豆もできるだけ鮮度が高いものを提供することで、これまでコーヒーを敬遠していた人でもコーヒーに興味を持ってくれるようになればと思っています。

  • (SHIMICOM)山田さんにとって、コーヒー豆の面白さ、魅力とはどういうところですか?
    (山田)ワインと同じで、土地や生産者によって味の個性がハッキリと出ているところが面白いです。先日もケニアの生産者さんをお招きしてセミナーを開いたんですが、お会いしたらとても素敵な方で、その方の人柄がコーヒー豆の味に出ていると思いましたね。 ワインとは違うコーヒーだけが持つ魅力としては、自分で抽出し味を作ることができるという点です。自分が美味しいと思う淹れ方をとことん追究できるところはとても面白いです。 コーヒー豆の世界は本当に奥が深く、いつも新鮮な驚きがあります。以前エチオピアの豆を焙煎している時、その弾けた香りが、フルーツや花、白胡椒のようなスパイスが混ざり合った、とてもコーヒー豆とは思えないような香りで、非常に衝撃を受けたことがあります。私にとってコーヒーは、日々の生活の中でなくてはならない存在です。白いご飯のような(笑)。その質が高いほど喜びも大きいです。そういうハッピーな気持ちで、毎日コーヒー豆と向き合っています。
  • (クレジット)
    取材・文 鈴木ハルカ  
    写真   嶋並ひろみ(嶋並写真事務所)
    (取材を終えて)
    コーヒーとワインに、これほど相通じる部分があるとは驚きでした。鍵はやはりコーヒー豆の特性を引き出す焙煎にあるようです。実際にこちらのコーヒーをひとくち啜ると、レモンティーのような飲み口だったり、チョコレートのような後味だったりと、それぞれの豆の独自性がはっきりと感じられ、これまで知らなかったコーヒーの魅力に気付かされました。
    豆の個性を味わうという新しいコーヒーの楽しみ方は、コーヒーの世界をさらに広げてくれそうです。コーヒー豆もワインのように、産地や農園の違いで選ぶ時代がすぐそこまで来ています