• 10号READ特集
    「フルーツカービングへの招待」

    フルーツの皮に繊細な彫刻を施すフルーツカービング。

    ナイフ一本で、するすると模様が彫られると
    フルーツは目一杯ドレスアップして着飾ります。
    それは、「食べてしまうのがもったいない」くらい。

    今月のSHIMICOMは、
    流行のフルーツカービングをご紹介します。

  • 見る人を魅了するカービングの世界

    この10年ほどで日本でもその存在が広く知られるようになったカービング。そんなカービングの世界において、若手実力派として活躍しているのがカービング講師の智美さんです。
    アトリエにおじゃますると、躍動感のある大胆なカッティングからは想像もつかない、優しい雰囲気の智美さんが現れました。蝶や昆虫をモチーフにしたヨーロッパ調のデザインなど、これまでにない新鮮な風を吹き込んでいる智美さん。
    バラエティ豊かな作品の数々を披露していただきながら、カービングの魅力についてお話をうかがいました。

  • カービングとの出会い

    (SHIMICOM、以下S)まず、カービングについて教えてください。
    (智美さん)カービングというのは、フルーツや石鹸などに繊細な彫刻を施していく、タイの伝統工芸です。紀元は700年前、タイのスコータイという時代に、王様を喜ばせるために王妃様がフルーツに彫刻を施しておもてなしをしたことが始まりと言われています。タイではホテルでディスプレイとして飾られていたり、レストランのお料理に出てくるといった形で目にすることが多いです。
    今もタイでは小学校で習うそうで、おそらく日本で習字を習うのと同じだと思います。でも、大人になってからも続けるのは料理人やホテルの方で、私たち日本人が趣味として行っていると言うと驚かれるそうです。
  • (S)智美さんがカービングを始められたきっかけは?
    (智美さん)私は子供の頃から細かい作業が大好きで、特に工作や版画といった、ナイフを用いて何かを作ることが好きでした。ある時テレビ番組でスイカにとても細かく彫刻をされているのを見て「これは素晴らしい!」と思ってすぐに調べてみたところ、フルーツカービングというものがあることを知りました。丁度その頃、子どもが生まれたタイミングでしたので、子どもを喜ばせるような料理にも応用できるのではと思い、近くのスクールを探したのが始まりです。
    最初は日本でスクールに通っていたのですが、そのうちもっと深い技術を学びたくなり、思い切ってタイに渡りました。タイのスクールでは一ヶ月間、毎日朝から夕方までレッスンを受け、ホテルに帰っても復習をするという、まさに朝から晩までカービング浸けの日々でしたので、ほとんど観光もしませんでした(笑)。
  • デザインのヒントは日常に

    (S)タイと日本のカービングの違いは?
    (智美さん)フルーツにこだわらずいろんな物を彫るという点では、日本の方が研究していてバリエーションが豊富だと思います。芸術性を求める部分は日本人の国民性かもしれません。
    デザインも、タイでは現地の伝統的なデザインがあり、若い方もその伝統的な模様を応用したり、タイで縁起の良い数字を入れたりするパターンが多いんです。ところが日本では、それぞれの個性を出したいということで、ヨーロッパ風の模様をデザインしたり、和風のデザインを取り入れたりしていますね。
    (S)どのように作るのでしょうか?
    (智美さん)まずナイフ1本と彫る素材を用意します。大きいかぼちゃなど皮が固いものは、沸騰して火を消したお湯に浸けると皮が柔らかくなります。石鹸も、固い場合はレンジで少し温めると掘りやすくなります。素材を手に持ち、まずは表面を削って整えます。彫る中心を決めたら、後は一気に彫り始めていきます。所用時間は、体験レッスンなどでは20分くらいで作れる簡単なデザインを作ります。慣れてくれば大きいものでも数時間ほどで仕上げることができますね。こちらのスイカは3時間くらいで作りました。
  • デザインのアイデアはどこから?
    (智美さん)何でもヒントになります。街なかでお店の洋服のデザインを見て「これはカービングに使える」と思ったり、お散歩中に花や葉を見て「これは誰も作っていないからやってみよう」とか。ただ、単なる平面の模様と違いカービングは立体的に作っていかなければなりません。例えばスイカは、表面の濃い緑から、黄緑、白、ピンク、赤、と色が何層にもなっているので、それを活かすデザインを考えます。
    また素材によってもデザインは変わってきます。事前に石鹸で彫ってみて「いけそう」と思ってスイカに彫り始めてみると、柔らかすぎて割れてしまいそうになったり。そうなるとその場でデザインを変えなければなりません。
  • (S)普段はどういうシーンで披露されるのですか?
    (智美さん)結婚式のウエルカムボードで作ることが多いです。新郎新婦のお名前と日付とお祝いの言葉を入れて。
    大きいスイカはそれだけでインパクトがあるので、来賓の皆様にとても喜んでいただけるようです。プライベートでは家族のお祝い事や、お客様がいらして料理でおもてなしをする時にお出しします。トマトの皮でバラを作ったり、身近にある野菜やフルーツで簡単に作れますから。みなさんびっくりして、喜んで食べてくれるのがとても嬉しいですね。
    普段使用することが多いのは、スイカや表面がツルリとしたハネージュメロンです。今の季節は、かぼちゃ、コリンキー、バターナッツ、もう少し寒くなると大根や、内側がピンクで表面が黄緑の紅辛大根もいいですね。紅辛大根は色合いが可愛らしいので、カービング界では大変人気なんです。
  • カービングの魅力

    (S)カービングを始めて生活に何か変化はありましたか?
    (智美さん)目に入るいろんなものに興味を持つようになりました。例えば、スーパーや八百屋さんでは常に珍しい野菜を探してしまいますし、スーパーやドラッグストアではカービングに使えそうな石鹸があるかどうか、必ずチェックしてしまいます。
    自宅では、子供を喜ばせたくて、かぼちゃに模様を入れて中にグラタンを詰めたり、お弁当に飾り切りしたものを入れたりするなどいろいろ応用しています。そのせいで家族は珍しい野菜を食べる機会が増えたと思いますね(笑)。
  • (S)カービングのどこに魅力を感じますか?
    (智美さん)何といっても身近な素材で作ることができるところです。特にフルーツや野菜の場合、その時期にしか作れないものを作ることができますから楽しいですね。同じデザインでも、スイカに彫るのとかぼちゃに彫るのとでは全く印象が違いますし。
    カービングをしている時は、常に一つ先の工程を考えてながらデザインを施していくので、一心に彫ることだけに集中しています。その没頭する時間に癒されるというか、心地よさを感じられるのも大きな魅力です。
    私はタイの技術がベースになっているので、デザインもタイ風のものが多いんです。でもせっかく日本人なのですから、これからはもっと日本画に描かれているような日本の伝統的なデザインもカービングに取り入れて、また違った印象のものを作ってみたいと思っています。
  • (S)カービングを始めたい方にアドバイスをお願いします。
    (智美さん)ごく身近な素材で作ることができるのがカービングのいいところだと思います。デザインは一見難しそうに見えますが、実はある程度パターンが決まっているので、基本的な彫り方ができるようになると、いろいろアレンジして作れるようになります。手先が器用かどうかは全く関係ありません。細かい作業が好きな方、料理が好きな方は、きっと楽しめると思います。練習してきれいなラインが彫れるようになるととても面白いですよ。ぜひ気軽に始めていただいて、身近な方を喜ばせていただけたらと思います。
    (取材を終えて)

    何の変哲もないスイカやかぼちゃが、智美さんの手によって見る見るうちに素敵な姿へと変身していきます。下書きなしでこれほど繊細な模様を刻むことができるとは・・・驚きを超え感動すら覚えました。
    人気の趣味として注目を集め始めているカービング。おもてなしから始まっただけあって、見る人を喜ばせられるところに大きな魅力を感じます。秋も深まるこの季節、お家でできる新たな趣味としてトライしてみてはいかがですか?

    (クレジット)
    取材・文 鈴木ハルカ  
    写真 中根佑子