• 「2月号READ特集」

    感性と理性。あなたは、音楽をどちらで聴きますか?

    女性がオーディオを選ぶ理由は、”音”なのだそう。
    音楽を再生するオーディオだけに、当たり前の話なのですが
    ただ、これまで男性諸氏がオーディオを”カッコよさ"や"憧れ"で
    選んできただけに、そんな話を聞かされると、「ちょっとやられた」と
    思うかもしれません。

    今月のSHIMICOMは、女性とオーディオについて考えます。

  • 若い女性の間でオーディオに興味を持つ人が増えています。
    ひと昔前は「男性の趣味」というイメージが強かったものですが今、オーディオの何が女性たちを惹き付けているのでしょうか。東京・銀座にある「SOUND CREATE Legato」の店長、竹田響子さんもオーディオに魅せられたひとり。
    「以前は、音が出ればいいと思ってました」という竹田さんに、最新のオーディオの魅力とそれがご自身にもたらしたものについてじっくりお話をうかがいました。

    (プロフィール) 竹田響子(たけだ きょうこ)。東京都生まれ。オーディオショップ「SOUND CREATE Legato(サウンドクリエイト レガート)」店長。アルバイト中に偶然オーディオに開眼し、現在勤続10年目。5年前に銀座・並木通りの同店の店長に。業界では珍しい女性店長。店頭での販売の他、納品やセッティングにも出向く。「価格に関係なく良いオーディオシステムで聴く音楽は人生を豊かにする」という信条のもと、オーディオの魅力を店舗ブログにて発信中。
    HP http://www.soundcreate.co.jp/legato/

  • (SHIMICOM)オーディオに興味を持つようになったきっかけを教えてください。
    (竹田)10年ほど前、当時違う職に就いていたのですが、事情がありその仕事を離れることになりました。その時に、ちょっと働いてみないかと知人にこのお店を紹介されたのです。私はオーディオには全く興味がありませんでしたので、最初は短期のアルバイトのつもりでした。ところが、働き始めて3?4ヵ月した頃、たまたまJBL(※1)のヴィンテージのスピーカーでエディット・ピアフの「愛の讃歌」を聴き、五感が開いたような衝撃を受けました。音の風を感じたんです。とても生々しくて、スピーカーから音楽と一緒にパリの風も流れてきたような気がして、「こんな世界があるのか」と目が覚めるような思いでした。この体験をして初めて「自分でも使ってみたい」と興味を持つようになったんです。
    それまでミニコンポは持っていましたが、機能が大事で音は二の次。大きいスピーカーなんて邪魔くらいに思っていました(笑)。

    ※1・・・アメリカにある世界有数のスピーカーのメーカー。

  • (SHIMICOM)竹田さんにとってオーディオの魅力とはどういうところですか?
    (竹田)まず、好きなアーティストを自分の目の前に連れて来ることができる、というところでしょうか。音にリアル感、生々しさがあれば本人を前に聴いているような感覚が味わえます。また、音が空気をガラッと変えてくれるので、自宅の部屋にいても違う世界に旅したような感覚も魅力です。
    音楽の深い部分に入り込んで楽しめるようにもなりました。アーティストの歌う声、奏でる音の細かいニュアンスを聴いて、演奏時の心情を想像したり、思いを感じることで「もっとこの曲を知りたい」という好奇心が生まれてくるんですね。それら背景を知ったうえで再びその音楽を聴くと、彼らが表現したかった本当の部分に気付かされたり、音楽に込めた深いメッセージを感じたり、全然違った発見があったり、音楽がこれまでよりもっと心に響くようなってきました。
  • (SHIMICOM)私生活ではどのようにオーディオを取り入れているのですか?
    (竹田)自宅ではいつも音楽を流して過ごしています。何をするにも「まずは音楽をかけてから」という感じですね。仕事で疲れて帰って来ても、音楽をかけてボーッとしているだけで気分転換ができます。
    オーディオだけを置いている部屋があり、プレーヤーと真空管のアンプ(※2)とヴィンテージスピーカーやスイス製のものを2、3機種置いています。最初の頃はコンパクトなもので揃えていたんですが、次第に音にこだわるようになり、男の人のオーディオルームみたいな部屋になっています(笑)。
    スピーカーって、天気や気温の変化で音が微妙に変わります。例えば雨で湿度が高い日は、ヴィンテージスピーカーなどですとユニットに紙や布を使っていて(※3)湿気を含んで少し鳴り方が重たくなるので、少しスピーカーを壁に近づけると鳴りっぷりが良くなるとか。そういうちょっとしたことでも愛情のかけ方で鳴り方が全然変わるので、お花に水をやるようにオーディオのある生活を楽しんでいます。

    ※2・・・音声を増幅する機器(アンプ)の種類の1つ。真空管アンプは音が暖かいと言われる反面、発熱量も大きく取り扱いが難しいと言われることも。

    ※3・・・電気信号を振動に変えて音を出すのがスピーカー。使われる素材は、昔は紙系が多かったが、今では高分子系、セラミックスなど様々な素材が使われる。

  • (SHIMICOM)オーディオによって自分自身に何か変化は生まれましたか?
    (竹田)まず聴く音楽のジャンルがとても広がりました。昔はポップミュージックくらいしか聴かなかったのですが、ジャズ、シャンソン、クラシックと幅が広がり、ライブやコンサートにもよく出かけます。同時に、音楽をきっかけに探究心も出てきました。その時代の出来事や歴史背景にも興味を持つようになって、関連する本や映画を積極的に見聞きするようになりました。 そうした感覚的な変化もあって、これまで大雑把に物事を見ていたのが、何事も細やかに捉えられるようになりました。仕事柄、目に見えない、触れることのできない音の違いを言葉で表現するので、聴くにしても食べるにしても、以前より感覚が鋭くなったと思います。
    (SHIMICOM)女性のお客様はどれくらいですか?
    (竹田)旦那様やお友達と一緒にいらっしゃる方や、銀ブラがてら一人で入ってこられる女性が増えてきました。路面店というのもありますが、店に立っているのが同じ女性だと気軽に入って頂き易いのかも知れません。お店では小振りなものやシンプルなもの、インテリアとしても可愛らしいものなど色々あるので、「これなら置いてみようかな」と、若い女性の方も興味を持ってくださいます。
  • (SHIMICOM)男性と女性で選ぶポイントは違いますか?
    (竹田)視覚的な面で言うと、女性はシンプルな方が好きですね。私自身、大げさなものは置きたくないという気持ちが強かったです。ただ、聴いていくうちに「この音を出すなら仕方ないか」と思うようになりました(笑)。男性はオーディオをモノとして捉えるので、憧れのアンプが目の前にあることに喜びを感じたりしますが、女性は自分の空間にフィットするかどうかが重要です。これは、すごく大切なことだと思います。
    また、女性は感覚的に聴かれるので、例えばご夫婦でいらして音を聴いた時、女性の方が「こっちがいい」とか「これの方がこういう感じがする」と、パッと身の回りの言葉で表現されるのです。私もそうですが、オーディオ好きになると、いろんな雑誌等を読んで前情報を得た上で音を聴きますから「こう聴こえるはず」と、つい頭で聴いてしまったり、「オーディオ用語」で難しく言おうとしたりするところがあります。逆に女性は音を聴いたまま「これがいい!」と敏感に反応できるのかもしれませんね。
  • (SHIMICOM)女性がオーディオに興味を持った場合、まずはどういったところから始めるのがよいか、アドバイスをお願いします。
    (竹田)いきなり全部を揃える必要はないので、まずは気に入ったものを使ってみることです。例えば、音もデザインも気に入ったスピーカーを見つけたら、まずはそれをご自宅のコンポに繋いでみるとか。今は小さいサイズでもビックリするようないい音のものがありますし、CDプレーヤーでなくてもiPodやBDプレーヤーでもCDは再生できます。いろいろ聴いていくうちに「自分はこういう音が好き」というのがわかってくると思います。例えばコンサートホールで音楽を聴く場合でも、前方で大迫力の音を聴きたいか、後方の席でパノラミックに楽しみたいか、みなさん好みが分かれます。それと同じで、まず好きな曲を聴いてみて、自分の好みの音が聴こえるものを選ぶのが一番いいんです。
  • (竹田) 長く「オーディオは男性のモノ」でしたが、今はカメラや自転車、山登りなど「男性の趣味」とされていたものを女性がどんどん取り入れて楽しんでいます。音楽は男女の区別などないので、ぜひ気軽にお店を覗いてみてください。気になるものがあれば、それこそ身近にいる男性に相談してみるのもいいと思います。詳しい方も多いので、喜んで教えてくれると思いますよ。
    オーディオは、家電というよりも時計や車といった嗜好品に近いものだと思います。意外と長く使えるものです。愛着を持って使えば音もよくなるし、手のかけ方で全然違ってきます。いい音で聴くと確実に世界が変わります。きっと思う以上の豊かな時間が過ごせると思います。この快感を一度知ってしまうと戻れなくなりますね(笑)
  • (取材を終えて)
    今はスマホや携帯音楽プレーヤーで手軽に音楽を聴ける時代だからこそ、ふとしたきっかけでオーディオに触れることは少なくありません。その意味で、ひと昔前よりも確実にオーディオへの敷居は低くなったと言えます。かくいう私も、最近オーディオの世界に少し興味を持ち始めたところなのです。
    ふと耳にする音楽がすごくいい音に聴こえたら、それはオーディオの世界への扉が開く時かもしれません。
    その時、“音の風”は、どんな風にあなたに響いてくるのでしょう?
    (クレジット)
    取材・文 鈴木ハルカ  
    写真   円山正史(円山写真事務所)
    P1,2,7(右),9,11,12