• 「3月号READ特集」

    立春を過ぎて尚、遠く感じる2014年の春

    しかし自然の歩みは着実にその準備を始めているに違いありません。
    そんな春を待つこの時期だからこそ触れてみたい体験があります。
    「熱気球」です。
    まるで春の訪れのように目に見えない動きと同調することで味わえる感動がそこにありました。

    今回は大学生パイロットの江田睦美さんと、数々の競技参加経験のある倉橋朋子さんのお二人に、その魅力について体験談を交えてお話していただきました。

  • (プロフィール)

    江田睦美(えだ むつみ)。栃木県生まれ。熱気球パイロット。茨城大学人文学部社会科学科学生。大学入学後、人生初の熱気球フライトで熱気球の魅力に惹きつけられ、同大学の熱気球同好会に入会。2011年10月にパイロットライセンス取得。その後、より高いフライトスキルを身につけるために国内各地でのフライトや、社会人チームのクルーを経験。現在、2014年9月にフランスで開催されるジュニア熱気球世界選手権にパイロットとして、ポーランドで開催される第一回FAI熱気球世界選手権にクルーとしての参加に向けて活動中。

    倉橋朋子(くらはし ともこ)。愛知県生まれ。熱気球パイロット歴18年。普段は愛知県の熱気球同好会に所属し、岐阜の大垣エリアや三重の鈴鹿エリアで週末にフライト。競技エントリーは競技好きのメンバーと共に各地で開催される大会に年間5回程度参戦。2014年にポーランドで開催される第一回女性熱気球世界選手権出場予定。

    日本気球連盟HP: http://www.jballoon.jp/
  • 熱気球との出会い

    まず始めに、熱気球との出会いについて教えてください。
    (江田)私は大学の新入生歓迎会で、気球サークルの方に「気球に乗ってみませんか?」と声をかけられたのがきっかけです。一度試乗させてもらえるということで、「せっかくなので記念に」と軽い気持ちで乗せてもらいました。ところが乗ってみたら、360度見渡せる風景と非日常感にすごく感激してしまって。「もっと気球を知りたい」と思い、サークルに入ることにしました。それまでは一度も気球に乗ったことはなかったですし、頭の中に気球という言葉すらなかったです(笑)。
    (倉橋)私は社会人になってから始めました。たまたま手にした雑誌で「気球のライセンスを取る」といった記事を見かけて、瞬間的に「あ、気球いいな」と思い、記載されていた日本気球連盟に問い合わせたところ、私が住んでいる愛知県にもチームがあると。すぐに連絡を取り、そこで初めて気球に乗せていただきました。気球ってただ楽しく乗るだけのイメージだったんですが、実際はチームで動くスポーツということ、気球の操縦以外にもたくさんの役割があることを知って、増々興味を持ちました。それで気球チームに入ることに決めたんです。
  • (SHIMICOM)なぜパイロットを目指そうと?
    (江田)大学一年生の時に、佐賀で開催される大きな大会にサークルの先輩が出場することになり、私はクルーとしてお手伝いをしました。その時の先輩の姿と、チームのみんなが一丸となって戦う姿がすごく格好よくて、自分もそんな風に仲間と一緒に戦っていきたい、そして表彰台に登りたいと思うようになりました。それで、パイロットを目指そうと思いました。
    (倉橋)私は、ただ乗っているだけではつまらなくなってきて、自分でも操作してみたくなりライセンスを取りました。やはり操作し始めると楽しさは全然違いましたね。そこからもうやみつきに(笑)。自分でコントロールできるところが面白いんですよね。
    (江田)そうそう、わかります!
  • (SHIMICOM)熱気球とは、どういう仕組みなのですか?
    (江田)上の風船の部分にバーナーで暖めた熱気を入れて、外気温との温度差を作ります。暖かい空気は上に行くので気球は上昇し、中の空気が冷えれば気球も下降するという原理です。その調整は手動で行ないます。風船の上の部分は丸い蓋(※1)がされている状態なんですが、リップラインという紐を引っ張ると蓋が下がり、そこから熱気が抜けて上昇が止まったり下降を始めるという仕組みになっています。
    (倉橋)あとは風を選んで飛んで行くという感じですね。高度によって風の向きが違いますので、目的地に到達するためのよりよい風がどこにあるかというのを、上空のパイロットが自分で探しつつ、地上のクルーからも探してもらい、最適な風を選んで目的地を目指します。

    ※1・・・リップパネルという、気球天頂部にある排気弁。飛行中はこのリップパネルの開閉と、バーナーのオン・オフによって、気球の上昇・下降の調節をする。

  • (SHIMICOM)熱気球競技とはどんなものなんでしょう?
    (江田)気球の大会って言うと「何を競うの?」ってよく聞かれますね(笑)。競技は、まず目的地が設定されて、離陸地からいろんな風を使って飛行し、どれだけ正確に目的地に近づけるかを競います。目的地に到達したら、上空からマーカーという砂袋を落とし誰が一番近づけたかを競います。
    (倉橋)タスク(※2)は20種類くらいあって、それぞれで順位を付けて点数をもらい、その合計点で優勝者が決まるんですが、私もチームに入ってから知りました(笑)。普段競技を見る機会はほとんどないですからね。パイロットの他に、目的地に車で先回りするチェイスという役割があります。チェイスする人は行く所、行く所で風船を上げて、風の角度や強さを無線でパイロットに伝えます。そうやって、地上と上空で常に情報交換し合い、どう動くのがよりいいかを判断するんです。まさにチーム戦ですよね。

    ※2・・・熱気球の競技のこと。決められたコースを正確に飛行するものや進路変更などの飛行運動の正確さ、飛んだ距離やスピードを競うものなどがある。

  • (SHIMICOM)パイロットとして、上空での操作で怖かった事はありますか?
    (江田)肌で強い風を感じたら怖いのかもしれませんが、実際には風を切るという感じではなく気球は風に乗って動くので、大抵は「気持ちいい」という感じです。ただ、状況は毎回違いますので、全く怖くないと言ったらウソになりますけど、適度な緊張感があっていいです。。
    (倉橋)私は怖いと思ったことは何回かありますね(笑)。ただ、そこをクリアしていく達成感が、後から楽しさに変わるんです。空を飛ぶと言っても、風の中で風と一緒に動いているから早さは感じないんですよ。気球の計器(※3)を見て初めて「あ、こんなにスピードが出ているんだ」って驚くこともあります。

    ※3・・・高度計、昇降計、球皮温度計、GPS、 速度計、コンパスなど、フライトの際には欠かせない計器類。

  • 仲間たちと力を合わせてフライトの準備を行う。

  • 熱気球の魅力とはどういうところですか?
    (江田)一番の魅力は非日常感が味わえるところです。私の場合は、世代や性別の違う社会人の方たちとチーム一丸となって戦うなんて、普段の学生生活ではできない経験です。それがとても楽しいですね。「風を読む」なんて言うと、普通の人は「えっ、なにそれ?」ってなりますよね(笑)。でも、そういうことを大の大人たちがみんな真剣になって考えたりするところも魅力に感じます。
    (倉橋)私は開放感ですね。普段の生活から一気に解放されます。気球の上では、頭の中には何もなくて、ただ「気持ちいい!」という感じです。また、飛行機と違って空気を自分の肌で感じられるので、自然の中にいるのがすごく実感できます。空をゆっくりと散歩しているような感覚になりますね。
    (江田)そう、自然と一体化するというか。風の流れと一緒に動いているので、飛んでるのを忘れちゃいますね。たぶん鳥もこんな感じで飛んでいるんだろうなって(笑)。
  • (SHIMICOM)上空ではどういう気持ちですか?
    (倉橋)普段見られない景色が見えるので不思議な気分になりますね。川に飛んでいる気球の影が映ったり。この渡良瀬遊水池辺りだと、冬は草木は枯れているんですが、3月に野焼きをすると一面黒くなり、新緑の時期には若草色の芽が出てきて、秋になると田んぼが黄金色に変わってきます。以前10月に飛んだ時、それはそれはきれいな景色で感激しました。そうやって、空から四季の景色の移ろいを楽しんだりしています。
    (江田)「今日は富士山は見えるかな」とか「あれはスカイツリーかな」などと考えながら乗っています。私は操作で頭がいっぱいになってしまうことが多いのですが、飛ぶからには楽しみたいので、なるべく気持ちに余裕を作って飛ぶようには心がけています。
  • (SHIMICOM)印象的なエピソードがあれば教えてください。
    (江田)楽しいことよりもハラハラした方が記憶に残っていますね。去年の夏、北海道での大会で風が早い時に飛んだんです。目的地は草原で、そこに着陸したかったのですが、前の気球が立ち上げたままで着陸できない状態でした。でもそこを越えるとどこまで飛んで行くかわからないし、「どうしよう!」と焦っていたら、地上の方たちが「ここで着陸していいよ!」と言ってくれて「じゃあ着陸しよう」と。地上から結構距離があったので、リップを全開にして、ドンと、落ちるように着陸しました。普段の生活ではもちろんですが、気球活動においても助け合いというのが本当に欠かせなくて、ここまで安全に楽しく気球をやってこられたのも多くの人の助けがあったからですね。
    (倉橋)ハラハラすることの方が多いよね(笑)。実は下りる時の方が難しいんです。状況によってはどこに着陸するかで相当迷いますね。地上の風が強いと止まらずに引きずられることもあります。止まってからは「面白かったな」って思えるんですけど、その最中はもう無我夢中です(笑)。そういうハラハラドキドキも気球の面白さですね。その都度その都度で風は全て違いますから、それを自分で判断しながら飛ぶところがまた魅力でもあります。
    (江田)経験が自信になりますね。「この前できたんだから大丈夫」って。
  • (SHIMICOM)熱気球に乗ったことがない人へメッセージをお願いします。
    (江田)ぜひ一度乗ってみてください。実際に乗ってその気持ちよさ、開放感を感じていただきたいです。
    (倉橋)日本気球連盟のサイトなどにイベント情報が載っているので、まずはぜひ体験していただきたいですね。空からいろんな高さで地上を見るって、なかなかできない経験ですから。風に乗って空を飛ぶ楽しさは、気球でしか味わえないと思います。
    (取材を終えて)
    熱気球の話で夢中のお二人に釣られて、つい私までパイロットになった気分になってしまいました。それにしても、熱気球というスポーツのなんと奥が深いこと!風を選び、それにうまく乗ってゴールを目指すという、まさに「風まかせ」の競技でありながら、それをコントロールするところがまた大きな魅力でもあるのでしょうね。パイロットとしてのお二人の姿に、アスリート的なたくましさを感じずにはいられませんでした。 カラフルな熱気球を見つけた時、これまでとは違う気持ちで見つめてしまいそうです。
    インフォメーション
    熱気球は大空を飛行するため、それに伴う危険の可能性はありますが、その危険はパイロットの努力によって限りなく回避することができます。 日本気球連盟では、パイロットになるためのトレーニングや安全飛行のための規程、機体に関しての指針などを通して、より安全に楽しく飛ぶ事を目指しての活動を行っています。(HPより) 熱気球に興味を持たれた方は、お気軽に日本気球連盟へお問い合わせください。
    (クレジット)
    取材協力 日本気球連盟、地上クルーの皆さん
    取材・文 鈴木ハルカ  
    写真   円山正史(mili)