• 今月の特集「フレンチスタイルのサンドイッチ」

    新緑の鮮やかな5月。

    陽気に誘われて、お弁当を持って屋外へ出かけてみませんか。
    今月は、フランス語で「軽食・お弁当」の意味を持つカスクルートを取り上げます。
    このカスクルート、最近ブーランジェリーやカフェ、パン屋さんで密かなブームです。
    パリパリのバゲットに、ハム、チーズなどを挟んで。
    どこへでも持ち歩ける気軽さとは裏腹に、バケットと具材が生み出すおいしさにハマる人が多いのだそう。

    5月とフレンチスタイルのサンドイッチ、
    とってもお似合いだと思いますが、いかがでしょう?

  • 今回フレンチスタイルのサンドイッチを特集するにあたって、なにより訪ねたかったお店が兵庫県芦屋にある「ビゴの店」です。
    店名にもなっているビゴさんは、’60年代の日本に「フランスパン・ブーム」を巻き起こした”フランスパンの第一人者”。
    「フランスではパンというと主食として食べるハード系のパン。それは人間を生かす神聖な食べ物であって、言うたら命の糧です。」というビゴさんですが、来日された当時は「パンは朝食かおやつ」という時代。以来何十年間にわたり「本当においしいパン」を広めてこられたそうです。フランスとは気候も習慣も違う日本でのパン作り、そしてフレンチスタイルのサンドイッチについて、ビゴさんの右腕として采配を振るう息子さんのジャンポール太郎さんにお話をうかがいました。

  • (プロフィール)

    ビゴ・ジャンポール太郎(びご じゃんぽーる たろう)。1965年東京国際見本市にてバゲットの作り方をデモンストレーションするために、来日したフィリップ・ビゴ氏は、ドンク三宮店、青山店、札幌等でパンを焼き、日本に初めて本格フランスパンを紹介し、「フランスパン・ブーム」を起こした。1972年、自身の店となる「ビゴの店」をオープン。以後、芦屋を中心に店舗を拡大し、1977年にはカフェレストランをオープン。1984年にドンクとの共同出資により「ドュース・フランス」を設立、銀座プランタンに「ドュースフランス」をオープン。2003年10月フランスのシラク大統領より、文化、科学、産業、商業などで卓越した功績を上げた人物を表彰するフランス最高の勲章であるレジオン・ドヌール勲章を授与され、日本におけるフランスパン普及の第一人者としての功績を認められた。現在は、長男のジャンポール太郎氏が右腕として経営を支える。

  • フランスパンを広めたビゴさんについて。
    ジャンポール太郎:父はパリでパン職人をやっていたんですが、23歳の時に師匠のレイモン・カルヴェルさんから、日本でフランスパンの指導をしないかと言われて、誰も手を上げなかったそうなんです。それで父が「じゃあ、私が行く」と手を上げたんです。その頃の父は母をなくした後で、もし存命だったら日本へ行く事を許してくれなかったんじゃないかと言ってますね。それくらい冒険だったらしいです。それで来日したのが1965年。言葉もわからないし、水も気候も違う。当時の日本ではフランスパンがあまり知られていませんでしたから、どうやって広めようかと苦労したと聞いています。 パン屋って外から見るとオシャレだと言われますが、実際には大変なんです。なにせパンを焼く窯がある部屋は普段で40度。夏は50度にもなりますから。それに時間がかかる。フランスパンですと、粉をこねて、発酵させて、次にパンチといってガスを抜いて、またもう一度発酵させて、次に分割して、寝かして、成形して、寝かして焼くわけです。ここまでで5時間半から6時間。「ほんまに好きでないと出来へん」仕事です。
  • サンドイッチの思い出
    ジャンポール太郎:高校の頃に、母がよくサンドイッチを作ってくれました。それはパリジャンというパンにバターとマスタードと塩コショウをして、そこにローストビーフを2枚くらい、それにサラダを挟むんですけど、学校に持って行って食べていると、友達に「俺の弁当と交換してくれ」ってよく言われました。で、「ええよ」と言って交換すると、「わ、何コレ?」って騒ぎになって。「今度お母さん、いつローストビーフ焼くの?」って、みんなが待ってましたね(笑)。
    大学でフランスに2年ほどいたんですけど、フランスのカスクルートというのは本当にシンプルです。普通にバター塗ってハムとチーズ挟んだだけ。それなのにすごくおいしい。
    日本でサンドイッチっていうとトッピングがすごいですよね、いろんなものをいっぱい挟んであって。あれもうまいんですけど、うちのはシンプルなフレンチスタイルでいこうと思ってます。ですからシンプルな分、パンにはこだわっています。たとえばビエノワ(※1)というパンは水分を吸ってくれる生地なので、アボカドとシュリンプとかに合います。またムッシュ・デペリエから教えてもらったトュトンというパン(※2)はちょっと甘みがあるんですけど、これがまたサンドイッチによく合うといった具合ですね。

    ※1・・・ミルクパンの一種。ぐるぐるねじったような模様が特徴的。

    ※2・・・甘みがあるパンの一種。ムッシュ・デペリエ氏は仏ナントでパン屋を経営している。

  • サンドイッチ専門店のむずかしさ
    ジャンポール太郎:実はサンドイッチ専門店って難しいんですよ。小さいパン屋さんだとパンを焼いてサンドイッチもやろうと思うと、それだけ人も必要になってくるから無理なんですよね。うちはパンのうまさにこだわっていますから、どこかで作って持ってくるというのは絶対に嫌だったんです。「その場で作ったフレッシュなサンドイッチを出したい」というのが父の夢でしたので。
    サンドイッチに使うフランスパンは、焼きたてのフレッシュなものでないといけません。それでパンを焼いて、サンドイッチの店へ届けるという今のスタイルになりました。
    日本人は新しいもの、珍しいものが好きですよね。だから年に5~6種類ほど新製品を出します。アイディアが沢山あるんですけど、
  • サンドイッチ専門店として
    「ビゴの店」が芦屋に出店して40数年。「サンドイッチ専門店を出すのが夢だった」というビゴさんが、7年前にオープンさせたのがサンドイッチ専門店「オー・ボン・サンドイッチ・ビゴ」。 朝7時の開店と同時にジョギングスーツの方や犬の散歩の方、車で乗り付けて何本もパンをまとめ買いされる方まで、ひっきりなしにお客さんがやってきます。店長の沼靖彦さんにお話をうかがいます。
    SHIMICOM(以下S):お忙しそうですね。さっきから拝見してますと、奥でサンドイッチを作ったと思ったら店頭に出てこられたり。あれは何をされているんですか?
    沼:チェックです。サンドイッチの一番は新鮮さですので。どれが売れてるか、足りないものはどれかをしょっちゅう確認しているんです。
    S:なるほど。サンドイッチの種類は何種類あるんですか?
    沼:大体うちでサンドイッチとしてやっているのが、パンの種類で数えると13種類。それを具材を替えて調理しますので、一つのパンで3種類くらい。全部で40種類くらいになりますね。それを季節的に替えていきます。
  • お客様を見れば、欲しいものがわかる

    S:お客様は常連さんが多いですか?
    沼:常連さんも多いですし、初めてのお客様もすごく多いです。私はほぼすべてのお客様の顔を覚えていますから、この方は見た事ないなとすぐわかるんです。で、そういう方がどんなサンドイッチを買われるのか。まあちょっと怖い反面、「これを買われたんだ」と嬉しくなることもあります。
    朝一番から見てますから、どのお客様が何を好まれるのかわかるんですよ。「もうすぐ8時だから、あの方が来るな」、「あのお客様はこれでないとダメだな」という具合ですね。
    ビゴの店では「フランス料理を意識しなさい」と、よく言われます。「味はもちろん。見た目にも野暮ったくならないように」という意味ですが、お客様にあれこれ見て選ぶのを楽しんでいただけるように心配りしています。
  • (取材を終えて)
    日本でフランスパンを広めたビゴ氏が「おいしいパンにフレッシュな食材をはさんだ新鮮なサンドイッチの店を出したい」と言い出した際、「フランスパンに野菜をはさむと、水分や汁気がパンに浸潤してしまうし、時間がたてばなおさらそういう状態になる」と反対する声もあったそうです。それを「回転が早い専門店であれば、良い状態でお出しすることができる」と逆転の発想で押し切ったそうです。 それから8年。フレンチスタイルのサンドイッチがブームになる中で、ハム・ソーセージを除いたほぼすべてを自家製にこだわるサンドイッチ専門店の存在感は今なお大きいと感じました。
    (クレジット)
    写真 嶋並ひろみ(嶋並写真事務所) )