• 「ピクニックに出かけよう!」

    ピクニックと聞いただけで、楽しそうな感じがしませんか? 芝生の上にラグを敷いておいしいものを食べたり、ビールやワインを飲んだり。 のんびりと語らいあったり、寝転んだり。 でも、いざ自分たちでピクニックをするとなると 何を持っていけばいいのか、どこでやればいいのか、と戸惑うことばかり。 <東京ピクニッククラブ>主宰の太田さんのアドバイスはいたってシンプル。 思い立ったら吉日。天気がよければ、バゲットとワインを持って出かけてみることです。 「へぇー、そうなんだ」 今月は、誰でも簡単に始まられて本格的に楽しめるピクニックをご紹介します。
  • 知っていそうで知らないピクニック

    みなさんは、ピクニックと聞いてどんなイメージを持つでしょう?いっぱい料理を用意して郊外へ出かけて。だから準備も大変そうと思われているかもしれません。そんなピクニックのイメージをくつがえす提案をしているのが「東京ピクニッククラブ」です。共同主宰の太田浩史さんに、ピクニックの魅力と、その楽しみ方についてうかがいました。

    (プロフィール)
    太田浩史(おおたひろし)。1968年東京都生まれ。建築家。博士(工学)。1991年東京大学工学部建築学科卒業。1993年同大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了。1993-1998年より東京大学生産技術研究所助手。2000年デザイン・ヌーブ設立。2003年 -2008年 東京大学国際都市再生研究センター特任研究員。2009年より東京大学生産技術研究所講師。主な作品に「AGCスタジオ」「久が原のゲストハウス」「PopulousCAPE」。編集企画・執筆に「10+1 #31 コンパクトシティ・スタディ」(INAX出版)、「世界のSSD100F/都市持続再生のツボ」(彰国社)など。2002年より<東京ピクニッククラブ>を共同主宰。
    HP http://www.picnicclub.org/
  • ピクニックとの出会い

    SHIMICOM(以下S):ピクニックに関心を持ったきっかけを教えてください。
    太田さん:妻と結婚する前のことです。デート中に彼女がケーキを買ったのですが、お店に食べる場所がなくて、「じゃあ公園で食べようか」となり、缶コーヒーを買って持っていたスポーツ新聞を芝生に敷いて食べていました。すると、僕らのすぐ近くで外国人の方が4人、きちんとラグを敷いてワイングラスを持って何やら楽しそうにやっているんです。それを見て、僕たちとあまりに違うんで「なんだあれは?もしかしてあれこそがピクニックというものか?」となったわけです(笑)。それでピクニックに興味を持つようになりまして、まず道具を集め始めました。ネットのアンティークサイトで初めてピクニックセットを購入したとき、中身は4~6人用のカトラリーセットとプレート、カップ&ソーサー、魔法瓶、サンドイッチケース、さらに塩とコショウ入れまで入っていまして、「ピクニックって、こんな真面目にやるのものなのか」と驚きました。
  • S:「東京ピクニッククラブ」を立ち上げられた経緯を教えてください。
    太田さん:ピクニックセットを集めているうちに、「そもそもピクニックってなんだ?」と興味がわき、ピクニックに関する本を探し始めました。そんなとき古本を見つけまして、その本には“1802年3月15日にロンドンにピクニッククラブというのができて、それをきっかけにピクニックが大流行した”と書いてありました。
    当時、女性はあまり男性と口をきいてはいけないといった風潮だったのですが、彼らのピクニックは男性と女性が気軽にしゃべれる社交の場だったようです。面白いことに、彼らのピクニックは屋内で行われたんです。公園や野山での食事を指すようになるのは、1850年代に公園ができ、休日が制定されるようになって初めて、屋外の食事がヨーロッパ中で流行るようになりました。歴史を辿ると、ピクニックはもともと社交だったんですね。
    偶然にも「今年で(※1)ちょうど200周年じゃないか」と盛り上がり、自分たちも「東京ピクニッククラブ」を立ち上げようと呼びかけたところ仲間が集まりました。今は建築家、デザイナー、写真家、フードコーディネーターなど様々な職種の人たちがいます。

    ※1・・・太田さんがピクニックの歴史が書かれた貴重な古本を見つけたのが2002年。1802年にロンドンでピクニッククラブができて、ちょうど200周年にあたっていた。

  • ピクニックを楽しむコツ

    S:<東京ピクニッククラブ>が提唱していることとは?
    太田さん:一言でいうと、「ピクニックをしよう」ということです。「Think Your Own Picnic」というコンセプトを掲げているんですが、これは「あなた自身があなた自身のピクニックを」という意味です。みんなピクニックをやりたいときにやるのが一番いいのですから、それぞれで企画して楽しんでください、ということを言い続けています。
    例えば札幌には札幌の場所と食材があるわけですから、それを活用したピクニックは札幌の人のほうがよく知っているはずだ、と。現在、大阪、名古屋、福岡といったいろんな地域でピクニッククラブができたので嬉しいですね。今度は石巻でピクニッククラブの立ち上げを呼びかけたいと思っています。僕らが考えた「ピクニックの15の心得」(※2)というものがあるんですが、これは各地の皆さん参考にしてくれているようです。

    ※2・・・<東京ピクニッククラブ>が掲げるピクニックの心得。「ピクニックは社交である。形式張らない出会いの場と心得るべし」など15項目ある。詳しくはHPをご覧ください。

  • S:ピクニックとキャンプはどう違うのでしょう?
    太田さん:キャンプというのは、起源をさかのぼると軍隊の練習です。訓練の一部なので、規律やサバイバルなど活動自体に目的があるわけです。例えば「あなたはお湯を沸かしなさい」「あなたはジャガイモの皮をむきなさい」と役目を与えられ、さぼっていると怒られるみたいな感じです。ピクニックは社交ですから、そこが根本的に違いますね。
    S:ピクニックに最適な人数ってあるんでしょうか?
    太田さん:経験上、10人を超えた方がいいです。僕はそれを「10人理論」と言っているのですが、9人くらいまでは、みんな一人がしゃべっていることを真面目に聞こうとするんです。でも10人になった途端にバラけてきて、あちこちで話の輪ができ始めてくるんです。だから10人がひとつの目安かなと。
    あと、人数が多い方がいろんな食べ物が食べられるのでいいですしね。上級者になると、1時からやってますと言っても1時には集まりません(笑)。最初に来る人は前菜みたいなものを持って来て、2時頃に来る人は肉を、3時頃に来る人はお菓子を持って来たりと、みんな他の人が持って来ているはずのもの、自分が参加したときに喜ばれそうなものを念頭に自分のものを持って来るので、そこが面白いんです。
  • ピクニックは社交の場

    S:ピクニックを長く続けるコツは?
    太田さん:各地でピクニッククラブができていますが、長く続く所と続かない所があります。続かない所をみると、メンバーが固定化してしまうみたいなんですね。例えば大学の仲良しグループということでやっていて、最初のうちは盛り上がるけれど、メンバーがいつも同じなのでだんだん飽きてきて続かなくなる。東京ピクニッククラブは12年続いていますが、来る人がどんどん変わっています。新しい人が入ってくることで新しい話題になるというか。メンバーが固定化しないことがコツだと思いますね。
    ピクニックは緩い社交の場です。好きな時間に来ればいいし、帰る人は引き止めません。お互いの時間が合う中で、自由に楽しめばいいと思うんです。日本にはお花見の文化があるし、昼間に外でお酒を飲むって気持ちがいいので、きっと日本人は好きだと思います。休日の午後、明るい陽の下で当たり障りのない話をしながら軽い感じで飲み食いして、さあ明日からの一週間に備えようと。上っ面の社交かもしれませんが、僕はそういうシャンパンの泡のように軽く、でも愉しさ溢れる集まりを考えてみたいと思います。
  • S:食べ物はどういったものがおすすめですか?
    太田さん:心得で言うと「料理は手軽さを旨とする。しかし安易であってはならない」が重要です。最初の頃、サンドイッチが無難かなと思って作って行ったことがあります。でも手間と時間が掛かる割に、当たり前すぎて、誰も何の感想も言ってくれないんです(笑)。それで、これは違うんじゃないかと思い、スコーンを作ってみたんです。すると、みんな「それなに?」って聞いてくれるんですよ。「なるほど!こういうことか」と思いました。つまり食べ物はコミュニケーションのきっかけ。知らない人も来る中で、そこからどういう話が始まるかが大事なわけです。もちろん買ってきたものでもいいから、何か話のきっかけになることが大事。自分でコーヒー豆を挽いてコーヒーをいれて配る人もいます。例えば鶏の丸焼きを持って行くことがあるんです。オーブンで焼くだけなので楽で、結構お安いんですが、それを見た時のみんなの反応が面白くて(笑)。「わーすごい!」って、すごく盛り上がりますよ。
  • (S:ピクニックを始めるためのアドバイスをお願いします。
    太田さん:「レジャーシートは使わない」、まずはこれに尽きますね。敷物は、要はテーブルクロスなんです。みんなの共通の食卓を綺麗な色や柄のものにして、そこにとびきりの食事を並べてみる。これだけで俄然やる気が出ます。ただ、ひとつ大事なのは敷物に上がり込まないこと。お花見は靴を脱いでシートに上がり込むので、食べ物を置くためには最低2.2mの幅の敷物が必要になります。ところが、布の端っこに腰を掛けるだけなら、敷物の幅が1.6mあればいいんです。草が気になるなら90cm角くらいの座るための敷物を持ってきてもいいですしね。幅が2.2mの布はブルーシートしか売ってないけど、1.6mになった途端、カーテン生地が選択肢に入ってくるんです。好きな生地を3m分くらい買って来て敷けば、その上に置く料理が全然違ったものに見えてきます。道具は、家で使っているコップとかお皿を持って来ればいいんです。しかも自分の分だけでいい。
    日本ではなかなか公園を使う文化が根付いていないように感じます。公園に行くのは小さな子供がいる家族くらいですよね。でももっと普通に大人が「休日だから公園行こう」となればいいなと。ピクニックはいい口実だと思いますね。肩肘張らないで、日曜日の遅い朝食を持ち込むような感じでいいんです。自分がいつも使っている物をかごに詰めて、本を読んだり昼寝したり、家の居間にいるようにくつろいで過ごす。これがピクニックの本当の楽しみ方だと思います。
  • (取材を終えて)
    「ピクニックは社交です」という言葉に、ハッとしました。手の込んだ支度をすることよりも、手軽に、いかに楽しく過ごすかが大事なポイントのようです。それさえ忘れなければ、あとはどこでも誰とでも気軽にできるものと知り、ピクニックが急に身近に感じられるようになりました。
    芝生のある気持ちのいい公園を見つけたら、それはピクニックを始めるチャンスです。
    次の休日、もし天気が良かったらピクニックに出かけませんか?
    東京ピクニッククラブ HP http://www.picnicclub.org/picnopolis_ncgh/index-j.html
    (クレジット)
    取材・文 鈴木ハルカ  
    写真   円山正史(mili)、宇高雅人(ゴジュウキュウ)
    モデル 松下俊輔、及川みずほ(三木プロダクション)