• 「スパイスの魅力」

    夏が、やって来ました。
    今年こそは、カレーをいちから手作りしてみたい。
    そんな方に必見のスパイス特集です。

    日本のスパイスの中心地といえば神戸。
    古くからインドとの間で定期船が就航し、
    今も多くのインド人が暮らしています。
    そんな港町・神戸で、スパイスの初歩から教わります。

  • スパイスの魅力を日本中に広めたい

    夏と言えばカレーを連想する人も多いのでは?暑くなるとなぜか食べたくなるカレー。スパイスが疲労回復や夏バテ防止にいいと言われますが、スパイスから作る、いわゆる本格的なカレーはハードルが高いイメージがあります。
    今回訪れたのは港町・神戸。こちらでインドレストランとスパイス専門店を手がけるバシン晴美さんに、スパイスの魅力をうかがいました。

    (プロフィール)
    バシン晴美(ばしんはるみ)。バシン・ホールディングス株式会社取締役。スパイス販売店「神戸スパイス」店長。インド人男性との結婚を機に、インドで食べたインド家庭料理のおいしさに感銘を受け、いつかインドレストランをやりたいと思うようになる。その後育児の傍ら、フリーマーケットでインドカレーの販売を開始。保存料や着色料を使わない本物の香辛料を使ったインドの料理を神戸に広めたいと、1997年神戸・北野にインドカレーの店「アールティー」1号店をオープン。本格インド料理の店と評判になり、神戸に住むインド人をはじめ、外国人客が多数来店し話題となる。その後「神戸スパイス」としてカレーやスパイスのインターネット販売も開始。ベテランのインド人コックをインドから呼び寄せ、本場の味をできるだけ再現しつつ、日本の食材を使用した料理でインド以上のおいしさを目指す。
  • スパイスとの出会い

    SHIMICOM(以下S):まず、インド料理のお店を始めたきっかけについて教えてください。
    バシン晴美さん:よく聞かれるんですが、私は生まれも育ちも日本です。たまたま結婚相手がインド人だったというだけで、私自身、特にインド好きだったというわけではありません。
    神戸は昔からインドとの貿易が盛んな土地で、異人館で有名な三宮の北野には沢山のインド料理店がありますし、インドの方も沢山住んでいらっしゃいます。結婚して、インドにある主人の実家に行くまでは、インド料理は辛いんだろうなと思っていたくらいですから、インド料理について何も知らなかったと言えます。ところが、お義母さまが作ってくださるインドの家庭料理が、どれもものすごくおいしかったんですね。辛くもないし、日本人の私にも合う味なんです。それでインド料理って面白いなと思ったのがきっかけなんですが、今では毎日カレーを食べているのですから、人間って不思議なものですね(笑)。
  • S:インドの家庭ではカレーが一般的なんですか?
    バシン晴美さん:インドではスパイスを使った料理全般をカレーと呼びます。ですから、「インドでは三食カレーを食べる」と言うと、日本のカレーを想像して驚かれますけど、そうではなく、スパイスを使った料理を食べているということです。
    インドでは、スパイスは常に家の中にある調味料のようなもので、日本のお醤油やお味噌みたいな感覚です。今日は寒いから身体を温めるスパイスを多めに入れるとか、胃腸が弱っているから胃腸が活発になるようなスパイスを使うとか、インドではそれぞれの家庭のお母さんが、家族の体調を考えてスパイスを使います。インドではその家庭のガラムマサラがあります。大体15?20種類のスパイスを調合して作るのですが、日本でも代々そのお家の味があるように、インドではガラムマサラがその家の味になっていると思います。
    私も結婚する前は、調味料と言えば醤油やみりんなどで、家にあるスパイスは胡椒くらいでした。でも結婚してからは、料理はもちろん、普段から何かとスパイスを使うようになりましたね。
  • スパイスは、どのようにして使うのでしょう?

    S:スパイスは、どのようにして使うのでしょう?
    バシン晴美さん:インド人は70%くらいがベジタリアンです。宗教上豚肉や牛肉を食べてはいけないんです。そうした理由から、野菜とスパイスで味を作るという食文化が生まれているのではと思います。実はインド料理では出汁というものは使いません。日本ではカツオや昆布で出汁を取り、それが料理の旨味となりますよね。でもインド料理の場合、野菜とスパイスが合わさることによって旨味が出るんです。 うちのレストランも使うのはチキンと野菜だけですが、そのスパイスのマジックで、野菜だけでもおいしい料理ができるんです。
    S:使うスパイスは何を基準に選ぶのでしょうか?
    バシン晴美さん:素材ですね。野菜、お肉、豆など、その素材にどのスパイスが合うかが大事で、スパイスを何でもかんでも入れてしまうと逆に食べにくくなってしまいます。スパイスには臭み消しの効果もありますので、例えばマトンなどのお肉を使う時は、その臭み消し効果のあるスパイスを使ったりします。
  • カレーをスパイスから作る

    S:市販のルウを使わず、スパイスからカレーを作ってみたいのですが。
    バシン晴美さん:最近、そういう方が多いです。ただ、スパイスに慣れていない方は、ひとつひとつ買い揃えるよりも、予め調合されたミックススパイスを使ってみるのがいいと思います。それで慣れてきたら自分でスパイスを揃えて、この香りをもう少し強くしたいとか好みに合わせて調整していただくと面白いと思います。
    今日は一般的なチキンカレーの作り方をご紹介しましょう。
  • [用意する材料](4人分)
    チキン(もも肉)500g
    タマネギ2個
    トマトの水煮缶1つ
    生のトマト1個
    ホールスパイス※1
    カレーパウダー
    ガラムマサラ※2

    (1)まず温めた油にホールスパイスを入れて香り付けをします。焦げないようにして、香りがついたら取り出します。
    (2)その油で、刻んだタマネギをきつね色になるまで炒めます。
    (3)そこにトマト、カレーパウダー、食べやすい大きさにカットしたチキンを入れて、最後に香り付けのガラムマサラを入れます。野菜の水分があるのでお水はほとんど使いません。
    (4)チキンに火が通ったらできあがりです。インドカレーはあまり煮込みませんのでとても簡単に作れます。

    ※1・・・クミン、クローブ、コリアンダーなど。香り付けのために実のまま使う。

    ※2・・・「カレーパウダー」は香り、味、色、辛み付けのために使われるミックススパイスであるのに対して、「ガラムマサラ」は仕上げの香り付けや辛み付けに使われるミックススパイス。これらはインターネットで販売中。

    神戸スパイス:http://www.aarti-japan.com/

  • バシン晴美さん:スパイスは中国では漢方です。発汗作用があり新陳代謝を活発にするので、夏バテしやすい方や冷え性の方にはおすすめしたいですね。普段の食事で少しづつ、継続して摂っていくことが大切ですから、例えばカップ麺にちょっとガラムマサラを振りかけるとか、いつも食べている漬け物にスパイスをひと振りしていただくだけでもいいんです。それだけで風味も良くなりますし、代謝も上がります。
    味付けだけでなく、お肉を柔らかくしたり臭みを消す効果もあります。また、クローブは口臭に利くので、食後に口に入れたりします。フェンネルシードは噛むと甘みがあり、臭い消しだけでなく消化吸収にもいいです。あと、紅茶と相性のいいスパイスは多いので、カルダモンやシナモンなど紅茶に入れるのはおすすめですね。私も朝はいつもマサラチャイを飲んで一日をスタートさせています。マサラとはスパイスのことで、スパイスの入った紅茶という意味です。寒い日はショウガを入れたり、夜はゆっくり眠れるように考えてスパイスを選んだり。身体の調子がとても良くなりますね。
  • スパイスの魅力とは

    S:スパイスのどういうところに魅力を感じていますか?
    バシン晴美さん:初めてインドで家庭料理を食べた時、野菜とスパイスが合わさることによって、こんなに複雑でおいしい味が生まれるなんて!と、スパイスが生み出す味のマジックに感銘を受けました。香りや旨味の素晴らしさ、その不思議さに今も惹かれています。ただし、そのスパイスの調合が合わなかったり、何かひとつだけが際立ってしまうと「んっ?」と首をかしげたくなるような味になってしまいます。私も未だに試行錯誤を繰り返していますが、目指しているのは、スパイス同士がどれもケンカしない調和の取れた調合です。難しいですが、それを突き詰めるのはとても楽しいものです。
    また、スパイスは心身への効用も大きいです。私は毎日カレーを食べます。昔は冷えがありましたが、スパイスのおかげで今は全くありません。インドでは体調が悪くてもすぐに薬で治そうとはせず、まずはスパイスや食べ物で治してみようという意識があります。実際スパイスには体調を整えたり、代謝を上げるといった作用がありますから、そういう健康にもいいところ、若さを保つ秘訣になるというところもまた、私にとっては大きな魅力ですね(笑)。
  • (取材を終えて)

    正直、スパイスの味方が180度変わりました。スパイス=辛いと思っていたのが、 恥ずかしいくらいです。 取材後、バシンさんのレストランでインドカレーをいただきました。焼きたてのナンですくって口に運ぶと、野菜や豆、チキンといった具材の旨味と、何十種類ものスパイスが混じり合ったなんともいわれぬ深みのある味が口一杯に広がりました。スパイスの香りに食欲も増進。おまけにじわりとくる辛さで身体の中から熱くなり、額には汗も。食べ終わる頃には心身が元気になるのを感じました。これがスパイスマジックというものなのでしょうか。お話を聞いて、食べて、知るほどにスパイスに興味が湧いてきました。夏バテ防止のためにも、この夏はスパイスを存分に活用してみたいと思います。

    (インフォメーション)→囲み記事にする 現在、インドレストラン「アールティ」は北野店、三ノ宮店、新長田店、三田プレミアムアウトレット店など6店舗を展開。7/7、大阪・心斎橋にアメリカ村ビッグステップ店オープン予定。 HP http://www.aarti-japan.com/    新長田店(本店)http://www.aarti-nagata.com/ 

    (クレジット)
    取材・文 鈴木ハルカ  
    写真 嶋並ひろみ(嶋並写真事務所)