• 1月号READ特集
    「朝ごはんで、世界を巡る」

    朝ごはんを食べると、なんだか元気が湧いて 1日をハッピーに過ごせるような気がしませんか? それは朝ごはんが、どんな豪華なランチやディナーにも負けない 特別なチカラをもっているから。 その私たちに元気をくれる朝ごはんならではの魅力を 世界のさまざまな国の朝ごはんが食べられる レストランのオーナー、木村顕さんに伺いました。

  • (プロフィール)
    木村顕(きむらあきら)/ワールド・ブレックファスト・オールデイ オーナー
    一級建築士でもあり、大学・大学院では約10年間、日本を代表する建築様式のひとつである書院造りを研究する。2008年、日光の古民家を書院造りの技術を活用して改築した宿「日光イン」をオープン。2013年には東京・南青山に「世界各国の朝ごはんを通して、その国の文化を知る」をコンセプトにしたレストラン「ワールド・ブレックファスト・オールデイ」をオープンした。

    ワールド・ブレックファスト・オールデイ http://www.world-breakfast-allday.com/

  • フランスの朝ごはん
    フランスでは朝、フルーツを食べることが多い。このプレートではカラフルなフルーツにフロマージュ・ブランを添えて。細く切ったフランスパン(右)を半熟卵(中央)に突っ込で食べるのも定番で、いわばフランス版の卵かけごはんのようなもの。手前左は冷蔵庫にある野菜などを適当に混ぜて焼くケーク・サレ(塩味のパウンドケーキ)。フランス人はこういったメニューを家族みんなが一緒に食べるのが一般的。
  • スイスの朝ごはん
    スイスの朝ごはんは、ミューズリー(奥:オーツ麦を加工したもの)。伝統的な羊飼いの食事をスイス人の栄養学者・ビルヒャー・ベンナー博士が改良した栄養バランスのよいメニュー。ミューズリーは前夜に牛乳とオレンジジュースを混ぜたものに浸けてふやかしておき、すりおろしたりんごに蜂蜜を混ぜたもの(左)やベリーやバナナなどのフルーツ、ヨーグルトと一緒に食べる。加熱したメニューはなく、すべてロウフード(生の食品)であることも特徴。。
  • 朝ごはんは、心のふるさと

    SHIMICOM、以下S 木村さんはなぜ、朝ごはんに興味をもつようになったのですか?
    木村さん そもそも僕は学生時代から、海外の文化に関心がありました。でも外国の方と話すとき、いきなり「あなたの国の文化について教えてください」と尋ねても、なかなか答えづらいものですよね。そんなときにたまたま外国の方と一緒に食事をする機会がありまして、僕が和食について話したら、その人が喜んで自分の国の食文化について教えてくれたんです。食の話ってすごく生活感がありますし、食を通してその国の文化が丸ごと見えてくるように感じられました。 そのときの話の中でとくに面白かったのが、朝ごはんの話です。日本の朝ごはんといえば、ごはんにみそ汁、漬け物、卵焼きを思い浮かべるように、どこの国にもそれぞれ定番の朝ごはんがあるらしい。そう気づいたときに興味が湧いてきて、僕が経営している宿泊施設で、外国人のお客さんに「あなたの国の朝ごはんのことを教えてください」というアンケートを取り始めました。
  • S アンケートからどんなことが見えてきたのでしょうか?
    木村さん 実はアンケートを取る前に、「朝ごはんとは何か」をじっくり考えてみたんです。 まず、朝は1日のうちで一番慌ただしい時間ですよね。そんなときに作るのだから、晩ごはんのように「今日は何にしよう」なんて献立づくりに悩むよりも定番のメニューをパパッと作った方が楽なはず。その一方で、飽きてしまって食欲が湧かないようなメニューも、朝ごはんにはふさわしくないでしょう。つまり朝ごはんとは、その国の人が毎日食べても飽きないほど大好きな料理が集まったメニューではないか。さらに材料が手に入りやすくて簡単に作れるものでないとダメなはずです。 すると、アンケートを取ってみたら大当たり! 朝ごはんは、その国の人なら誰でも知っていて大好きな、魅力的なメニューがつまったものであることがわかってきたんです。

    ワールド・ブレックファスト・オールデイで実施しているアンケートには、見事なイラストや手書きの丁寧な説明が。自分の国の朝ごはんについては、誰もが熱く語りたくなるようです。

  • 朝ごはんはソウルフード

    S 好きな料理ばかりだから、朝ごはんは食べ飽きないのですね。
    木村さん 実際に朝ごはんを提供するレストランを始めてみてからわかったこともあります。それは、朝ごはんは個性的なメニューのオンパレードだということ。例えば日本の朝ごはんなら、納豆や梅干し。初めて食べた人はびっくりしてしまうような強烈な個性がありますよね。これと同じように、他の国の朝ごはんにもそれぞれ、かなり個性的なものが含まれているんです。 そして、そういう風変わりな料理ほど、その国の人にとっては、「それがないともの足りない!」と感じる、大事なソウルフードであるようです。例えば、ペルーには「タマル」というトウモロコシ粉でできたちまきがあります。初めて食べたときは、クセがあるにおいが鼻について、ちょっと苦手だったのですが、毎日食べているうちにだんだん好きになってきました。何度も食べるうちにおいしさがわかってきて、なんだかクセになってしまう。それが朝ごはんの醍醐味なのかもしれません。
  • 記憶に残る朝ごはん

    S これまでに提供したメニューの中で、とくに印象的だった朝ごはんは何ですか?
    木村さん 意外に苦戦したのが、ブラジルのサンドイッチです。ブラジルでは、毎朝「パダリア」と呼ばれるパン屋さんでパンを買い、それに好きなハムとチーズを挟んだサンドイッチを作ってもらい、それを自宅に持ち帰って家族で食べる習慣があります。このパンは「ポンフランセーズ」、訳すとフランスパンなのですが、フニャフニャした独特の食感で、日本で売っているフランスパンとはまったく違ったんです。このブラジルのパンがなかなか見つからず、結局、群馬県にあるブラジル人街のパン屋さんを見つけ出し、そこからパンを取り寄せることにしました。最初にこのパンを食べたときは正直、「日本のフランスパンのほうがおいしい」と思ったのですが、ブラジルのハムやチーズを挟んで食べてみたら、「なるほど」と納得してしまう相性のよさ。ブラジル人のお客さまには大好評で、やはり、朝ごはんにはその国ならではの魅力があるのだと再確認しました。
  • イギリスの朝ごはん
    イギリスの伝統的な朝ごはん「フルブレックファスト」。卵を2個使ったオムレツ、トマトとマッシュルームのソテー、ソーセージ、ベイクドビーンズ、ハッシュブラウンに揚げたトーストを添える。 産業革命の時代、労働者が朝からエネルギーチャージするためにボリュームたっぷりの朝ごはんが作られるようになった。この時代には伝染病も流行したため、すべて火がしっかり通った料理となっている。
  • 朝ごはんは、文化です

    S あらためて、朝ごはんの魅力とは何でしょうか?
    木村さん 日本人なら、「畳の上を素足で歩く感触」「晴れた昼下がりに縁側でゴロゴロする」といえば、その気持ちよさがちゃんと伝わりますよね。それと同じように、「日本の朝ごはん」といえば、みんなが共通のイメージをもち、そのおいしさを想像できる。これは、すごいことだと思うんです。 そしてもうひとつ、朝ごはんのすごいところは、作者がいない無名の料理だということ。有名レストランの名シェフの自慢料理でもないのに、みんなに「おいしい!」といわれる食べ物は朝ごはんの他にないでしょう。朝ごはんはその国を代表する文化のひとつ。このお店で、その魅力を多くの人に知ってもらいたいです。
  • 【取材を終えて】
    イギリスのフルブレックファストは揚げ物がいっぱいで、朝からこんなに食べるの!? と、ボリューム感にびっくり。フランスの朝ごはんはカラフルで美しくて、これを毎日食べたらキレイになりそう…とうれしくなりました。ミューズリーといえば、日本で市販されているカリカリのものを想像していましたが、スイスの食べ方だとしっとり、もっちりして、想像外の食感。食も文化も、実際に体験してみないとわからない、とあらためて実感しました。どの国の朝ごはんも個性的ですが、食べるとホッとしたり、元気が出たりするのは、きっと世界中どこでも同じはず。今度海外の人と出会ったら、朝ごはんを話題にしてみたいと思いました。
    [ワールド・ブレックファスト・オールデイ] 東京都渋谷区神宮前3-1-23-1F 03-3401-0815 http://www.world-breakfast-allday.com/
    クレジット
    取材協力:ワールド・ブレックファスト・オールデイ
    取材・文:市原淳子  
    写真:疋田千里