• 2月号READ特集
    「南国の色に誘われて」

    1年でいちばん寒いこの季節、 ダークな色を見慣れた私たちの目に飛び込んできたのが 沖縄の伝統工芸「紅型(びんがた)」。 春の到来を予感させる染め物の魅力とは? その色彩の美しさにひと目惚れして 沖縄に移住した若手紅型作家の縄トモコさんに伺いました。

  • (プロフィール)
    縄トモコ(なわともこ)/紅型作家
    1981年 2月6日、鳥取県米子市生まれ。2003年に沖縄県に移住し、紅型を学ぶ。2007年に独立し、オリジナルブランド「紅型ナワチョウ」を設立。陶芸家、写真家とともに物作りユニット「コココ工房」を結成。現在は沖縄県内だけでなく、日本各地、韓国・フランス・ベトナムなどで個展・グループ展を開催している。

    紅型ナワチョウ http://bingata-nawachou.com/

  • 何度も途絶えかけた紅型

    SHIMICOM、以下S 紅型(びんがた)とは、どういった染め物なのでしょうか?
    縄さん 紅型(びんがた)は、沖縄の伝統的な染め物です。自分で彫った型(かた)を布の上に置き、さまざまな色の顔料(がんりょう※)で花や風景など、さまざまなモチーフを染め出したものです。 実は紅型は何度かピンチを迎えています。紅型が生まれたのは琉球王朝時代。その頃は王族や士族など、位の高い人だけが身につけることを許された、とても高価で貴重な染め物でした。王朝がなくなったときに紅型の技術は途絶えかけたのですが、民芸運動家などによって再発見されて技術をつなぐことができました。しかし太平洋戦争中の沖縄戦でまた途絶えてしまって……。戦後になって、それを必死に復興した方々がいらして、そのおかげで今日の私たちが受け継ぐことができました。紅型はそんな試練をくぐり抜けてきた沖縄の宝物のような染め物なんです。

    ※顔料……鉱物や植物など、自然の材料から色を抽出した水に溶けないタイプの着色剤のこと。

    沖縄の植物「月桃(げっとう)」をモチーフにした縄さんのオリジナル作品。

  • 紅型が描く南国の色彩

    S 紅型には、どんな特徴がありますか?
    縄さん 日本の伝統工芸の多くは、「菊に月」「桜に流水」というように季節を表現するものが多いですね。でも、古典的な紅型は、「つばめと梅と桜」の組み合わせがあったり、冬のモチーフである「雪輪(ゆきわ)」がトロピカルな色で染め出したりと、いわゆる季節感の決まりごとから解放された自由さが魅力なんです。また、意外かもしれませんが、古典柄には沖縄らしいモチーフはなくて、「松竹梅」や「花鳥風月」といった伝統的な和柄や、中国やインドなど外国の影響を受けた龍や鳳凰などの柄が多いんですよ。 もうひとつの特徴は何といっても、南国らしい鮮やかな色彩です。沖縄は日射しが強いですから、花や海の色、緑が力強く、くっきりと見えます。また、光が強いだけに陰も濃く、そのコントラストがとても印象的。紅型では、例えば「ぶき」と呼ぶ淡いピンク色には赤色の「隈(くま)」を重ねるというように、淡い色と濃い色の組み合わせによって、沖縄の光と陰を表現します。

    写真上/雪の結晶を表した「雪輪」も、紅型になるとこんなにカラフルに。
    写真下/縄さんデザインの紅型の布で作ったがま口。すべて手染めのため、同じものが2つとない。

  • S 紅型はどのようにして染めるのですか?
    縄さん ちょっと専門的になりますが、まずは「型彫り」。これは、デザインを描いた型紙用の紙をカッターの刃で突くように「突き彫り」します。こうすると線にギザギザができて、紅型独特のおおらかな雰囲気が出るんです。次は「型置き」。型紙を布に重ねて、その上から刷毛で糊を塗ると、糊が塗られた型の部分は顔料で染まらないため白く残ります。 糊が乾いたら、まず「色挿し(いろさし)」。専用の筆で、淡い色から濃い色の順に顔料を布に刷り込むように染めていきます。それが乾いたら次は、紅型の特徴である「隈擦り(くまずり)」です。「ひぐ」という赤みの強いピンクには赤系のひぐの隈、黄緑には緑隈というように同系色の濃い色の隈をつけるのが、伝統的な紅型の決まり。隈をつけることで陰影がつき、立体感が出るんです。顔料が乾いたら、熱処理をして色止めし、布を水に浸して糊をふやかして洗い流す「水元(みずもと)」という作業をして、完成です。

    縄さんが自分の手で刃を研いだデザインカッターで型彫りをする。今彫っているのは、フランスのボタンをモチーフにしたデザイン。

  • 左上/彫った型紙を網戸のような台紙に重ねて補強。それを布に乗せ、うすいブルーの糊を塗る 右上/右は淡い色で「色挿し」したもの。左は「隈刷り」まで終えた状態。2つの色のハーモニーによって、モチーフが生き生きと浮き上がって見える。 左下/糊を水で洗い流すと、こんな鮮やかな紅型が見えてくる。「糊が落ちて、完成した図柄がパッと鮮明になる瞬間はいつも楽しみです」と縄さん。 ?

  • 沖縄の明るさに魅せられて

    S 縄さんと紅型との出会いについて教えてください。
    縄さん 私は鳥取県の出身で、関西で介護や演劇の専門学校に通い、22才までカフェバーで働いていました。美術系の勉強はしたことがなく、趣味として絵を描く程度でした。あるときたまたま、雑誌の沖縄特集で見かけたのが紅型です。「紅型にはこんなに明るいキレイな色があるんだ!」と感動して、すぐに沖縄に向かいました。そのまま2週間ほど滞在して、運良く紅型を学ばせていただける工房と住むところを見つけられたので、すぐに沖縄に移住してしまいました。もうこれしかないという意気込みだったんです(笑)。 紅型の勉強を始めてみたら、デザインを考えるのも、コツコツ型を彫るのも、染めるのも、あらゆる作業が楽しくて、「私がやりたかったのはこういう仕事だったんだ」と気づきました。紅型が、それまでの人生で一度も感じたことがなかった手応えを与えてくれたんです。
  • S 作品を作る上で、こだわっている点は何でしょうか?
    縄さん 最近の紅型作品は、色もモチーフもかなり自由になっていますが、私は伝統的な色の組み合わせを守っています。そのほうがキレイですし、私の好きな紅型独特の味わいが出るからです。私の色彩は、伝統的な沖縄のものと比べると、彩度がやや低く、地味かもしれません。私としては鮮やかな色を意識しているつもりですが、山陰出身だからでしょうか、どこか自分のルーツがにじみ出てしまうのかもしれませんね(笑)。 色使いももちろんですが、一番こだわっているのは、デザインと型です。紅型はもともと高貴な人が身につけていたもの。今では誰もが気軽に取り入れられるようになりましたが、昔の紅型がもっていたような気品がどこかに感じられるデザインや色使いを大切にしています。 紅型を始めたことで、私は生き甲斐を見つけることができました。ですから今度は私が紅型に恩返しをする番。紅型作品を発表し、多くの人に見てもらうことで、「沖縄にはこんな素敵な宝物がある」ということを知ってもらえたら、何よりうれしいです。
  • フレーム作品『波の音と遊ぶ』は、沖縄の海をテーマに、オーガンジーシルクやフランス製の紙を使って制作したもの。

  • 左/「現代の生活になじむ紅型を」という思いから生まれたバッグ。伝統的な和柄の菊も、紅型になるとポップな雰囲気。 右/幻想的な雰囲気のフレーム作品『風に舞って』

  • 【取材を終えて】
    寒さの厳しい2月、すっかり忘れていた温かさ、明るさを思い出させてくれたのが沖縄の紅型でした。縄さんの作品には、沖縄の植物「月桃(げっとう)」や海のモチーフを染め出したものも多く、見ているうちに、縮こまっていた心に南風が吹きこみ、温かく柔らかな気持ちが戻ってきたようで、春の訪れが楽しみになってきました。
    アトリエ&ショップCOCOCO 縄さんが所属していた作家ユニット「コココ工房」の陶器担当、ヨコイマサシさんのお店。 縄さんの紅型作品のほか、ヨコイさん考案で縄さんとのコラボ商品・紅型陶器などが展示、販売されています。 沖縄県南城市玉城當山124 TEL 090-8298-4901 営業時間 11:00?17:00頃 定休日 火・水+不定休 http://www.cococo-shop.com/
    クレジット
    撮影協力:アトリエ&ショップCOCOCO
    取材・文:市原淳子 
    写真:丑番直子(USHIBAN photo office + studio)