• 3月号READ特集
    伊勢志 ?海からの贈り物?

    穏やかな海から生まれる奇跡のような宝石、真珠。 その産地として有名なのが、 今年5月にサミットが開催される伊勢志摩です。 この地で真珠の仕事に携わる奥野泰司さんに、 女性を引きつけて止まない真珠の魅力について伺いました

  • (プロフィール)
    奥野泰司(おくのやすし)/伊勢志摩真珠館 館長
    奥野泰司(おくのやすし)/伊勢志摩真珠館 館長 1984年、母・奥野茂子が創業した伊勢志摩真珠に就職。95年、母とともに真珠のテーマパーク「伊勢志摩真珠館」をオープン。98年に代表取締役に就任。現在は真珠の取引から加工・販売、真珠館の運営を行うとともに、真珠の魅力を広く伝える活動や、真珠を生み出す環境保全活動にも取り組んでいる。

    伊勢志摩真珠館 http://www.shinju.ne.jp/

  • 海から生まれる優しくまろやかな光

    SHIMICOM、以下S 真珠には、他の宝石にはない独特の魅力が備わっていますね。
    奥野さん ダイヤモンドやルビー、エメラルドなど、宝石の多くは鉱石から取り出されますが、数ある宝石の中で真珠だけが海に棲む貝の力を借りて生み出される、いわば“海からの贈り物”です。 真珠の特徴はなんといっても、丸みを帯びていることです。これほど美しい球形のものが自然の力で生み出されることは、それだけで奇跡のような気がしますし、自然の偉大さを感じてしまいます。他の宝石はカットを施されるために硬質で強い輝きを放ちます。しかし、真珠の光沢はあくまで控えめで、つける人に優しく寄り添い、その人の美しさを引き出してくれるような、不思議な力があるのです。 清楚でありながら他の宝石にはない特別な存在感。それが、古くから世界中のセレブリティを魅了してきた理由ではないでしょうか。
  • S 真珠は、ここ伊勢志摩でどのように生み出されていますか?
    奥野さん 真珠にもいろいろな種類がありますが、その中でも最も希少性が高く、また高価なのがあこや貝が作る「和珠(ルビ=わだま)」です。毎年春になると、あこや貝の体内に真珠の芯となる「核」と貝の一部(※1)を入れます。すると貝は海で成長する間、核を自分の体の一部だと勘違いして、核の周りに「真珠質」という分泌物を巻き付けて、丸い珠を作ります。それが真珠になります。12月から1月になると貝を浜揚げし、体内から真珠を1つずつ手で取り出します。 人の手で環境を整えて養殖しているとはいえ、真珠はあくまで生き物が作り出す天然の宝石。ですので色も純白のものから、ピンク系やグリーン系、イエロー系などさまざまですし、同じ色と大きさの真珠を揃えるのは至難の業です。熟練の職人は1粒1粒の状態を見極めながら、真珠がもっともよく見えるようにバランスを整え、アクセサリーに加工していきます。

    ※ 1 別の貝から採った「外套膜(がいとうまく)」を小さく切り、核とともにあこや貝の生殖巣に移植する。外套膜とはいわゆる貝ヒモの部分。

  • 左上/真珠を作る貝の中でもっとも大きくなる白蝶貝(しろちょうがい)からは大粒の真珠ができる。内面が銀白色のものからは白い真珠、金色のものからがゴールドパールが生まれる。 右上/貝の内側に黒い縁がある黒蝶貝(くろちょうがい)。黒真珠を生み出す貝として有名。 下/虹のような光沢のあるマベ貝は白や黒だけでなく、さまざまな色合いの真珠をつくる。貝殻に張りつくように半円形の真珠ができることが特徴。

  • 真珠の美しい装い方

    S 真珠はどのように身につけるとよいでしょうか?
    奥野さん たしかに真珠のアクセサリーは、冠婚葬祭のようなフォーマルな場面でよく使われる宝石です。でも、真珠の光沢はとても控えめですから誰にでも、どんなシーンにでも似合います。それに、胸元に白い真珠が1粒あるだけで、顔の周りがぱっと明るく、若々しく見せてくれますから、特別なときにしかつけないのはもったいないと思うんです。 よく、「娘がある年齢になったら真珠をプレゼントする」という話を聞きます。もしそんな風に真珠を受け取ったら、どうかしまい込まず、どんどん身につけてほしいですね。真珠は柔らかいと思われがちですが、歯で噛んでも傷つかない程度の硬度はありますし、使った後に柔らかい布で汚れや汗を拭き取るだけで、美しさを保つことができます。
  • ロングのネックレスは、あえてカジュアルなファッションのときにつけると素敵。「普段着のニットやTシャツがワンランク上のおしゃれに見えます」とは、奥野さんの弁。>

  • 左/不規則な形をしたバロック真珠。同じ形が二つとない個性的なところが人気で、バロック真珠だけを集める真珠好きも多いそう。 中/ブラック系にも、黒みの強いものから淡いもの、パープルやグリーン、ブルーなどさまざまタイプがある。 右/最近人気があるのは、真珠の中央に直接チェーンを通すステーションタイプ。シャツスタイルなど、かっちりした雰囲気のファッションのときに胸元に真珠をのぞかせると、女性らしい雰囲気となる。

  • 未来に伝えたい真珠の魅力

    S 奥野さんが真珠のお仕事を始められたきっかけについて教えていただけますか?
    奥野さん 僕が真珠の仕事を始めたのは27才のとき、母が興した会社に入ってからです。母は「人にも個性があるように、真珠にも個性がある」とよく言っていました。真珠を家に持ち帰っては、1粒1粒じっくり見つめながら選別していました。また、「真珠の粒を見ただけで、それにふさわしいデザインがわかる」と、職人たちと話し合いながら商品を作っていたのを覚えています。 残念ながらその母は3年前に他界しましたが、その当時から一緒に仕事をしてくれている職人やスタッフにいろいろ教わりながら、真珠の魅力を伝える仕事に携わっています。
  • 未来に伝えたい真珠の魅力

    S 真珠のお仕事について、今後の展望をお聞かせください。
    奥野さん 5月に開催される伊勢志摩サミットに向けて、環境問題のスペシャリストである三重大学の朴恵淑教授や学生さんたちが、この地域の魅力や課題を探る活動を行っています。このお話を伺って、僕もぜひこの活動に協力したいと考え、プレス発表の会場として真珠館を使っていただくことにしました。 伊勢志摩は、複雑に入り組んだリアス式海岸で有名ですが、その海岸線の近くまで世界遺産にも選ばれた紀伊山地(※2)が迫っています。深い山や森が生み出す養分は川を通じて英虞湾(ルビ=あごわん)に流れ込み、あこや貝を育む豊かな海を作ってくれています。良質な真珠を作りたいと思ったら、海はもちろん、山や森など、地域全体の自然を守っていかなければなりません。 僕がこうした活動に協力することで、母の真珠への想いが若い人たちに伝わり、将来もずっと伊勢志摩の真珠と自然を守ることにつながっていけば最高にうれしいですね。

    ※ 2「紀伊山地の霊場と参詣道」は2004年にユネスコの世界遺産に登録された。

  • 【取材を終えて】
    真珠の清楚で控えめな光沢には、他のどんな宝石とも違う優しさがあります。生き物の力を借りて作られると伺ったせいでしょうか、その1粒1粒に小さな命が宿っているような、不思議な温もりを感じました。そういえば私も、母にもらった1粒真珠のネックレスをもっていたはず。奥野さんに勧められたように、これからは普段使いで楽しもうと思いました。
    伊勢志摩真珠館  住所/三重県鳥羽市堅神町545 TEL/0599-21-0077 営業時間/8:00~17:00(年中無休) http://www.shinju.ne.jp/
    クレジット
    取材協力:伊勢志摩真珠館
    取材・文:市原淳子 
    写真:坂田謙