• 4月号READ特集
    「楽しく作って、食べられるアイシングクッキー」

    アイシングクッキーを知っていますか? 生まれたのは、18世紀のイギリス。 王室のお菓子をデコレーションするための技術が磨かれて、 のちに一般に普及したと言われています。 粉砂糖と卵白と水から作られる、このアイシングを 自由自在に使ってユニークな作品を作り出している アイシングクッキー工房「トリゴエカナ」のはるやまゆみこさんに アイシングクッキーの面白さや魅力をお話しいただきました。

  • (プロフィール)
    はるやまゆみこ/アイシングクッキー作家
    新潟県出身。文化服装学院卒業。2011年頃にアイシングクッキー制作 にめざめ、2012年には「Trigo e Cana(トリゴエカナ。ポルトガル語 で『麦と砂糖』の意味)」の屋号でアーティストとしての活動をスタ ート。2015年にはアトリエをオープン。現在は全国のイベントなどで 作品の販売やワークショップを行う。

    http://torenta.tumblr.com/

  • ーーアイシングは、食べて楽しいフードアード

    SHIMICOM、以下S まず、アイシングとは何ですか?
    はるやまさん 粉砂糖と乾燥卵白に少量の水を加えて練り、ペースト状にしたもののことをアイシングと言います。柔らかいうちに食用色素を加えると、絵の具のようにさまざまな色を作れます。それをクッキーなどに絞り出して、絵や文字、模様などを描いてから乾燥させたものが「アイシングクッキー」です。 クッキーの形も、色づかいやデザインもアイディア次第で自由自在。真上からは平面に見えますが、手に取ってよく見ると、例えば鳥の目や羽が重なりあったところはぷっくりふくらんでレリーフのように見えますよね。このように、平面でもなく立体でもない、その中間を表現できることがアイシングクッキーならではの面白さ。そして、できあがった後は眺めたり、写真を撮ったりして楽しんで、最後はおいしく食べられる。そんな「二度おいしい」ところもアイシングクッキーのいいところですね。

    上:粉砂糖と乾燥卵白に水を加え、ハンドミキサーで練っていると、半透明の状態から、次第につやが出てくる。

    下:食用色素をほんの少し加えてよく練り、色付きのアイシングを作る。黒のアイシングは竹炭で着色したもの。

  • 左上:厳選した小麦粉とバターを使って作るはるやまさんオリジナルのクッキーは香ばしく、味わい豊か。 右上:透明なシートで作った「コルネ」に黄色のアイシングを詰めたもの。コルネの先端を小さく切り落とし、アイシングを絞り出す。 左下:まず、固めに作ったアイシングで色をつけたい部分の輪郭を描き、土手を作る。 右下:柔らかめのアイシングを土手の内側に、ムラなくたっぷりと塗る。この後、脚や目を描き、数時間乾燥させると小鳥のアイシングクッキーの完成。

  • 専業主婦からアーティストへの転身

    S アイシングクッキーを知ったきっかけを教えてください。
    はるやまさん 実は私は、お菓子や料理の修業をしたことはなく、アイシングクッキーを知ったのも、まったくの偶然でした。 もともとファッション雑誌の編集者になりたくて、高校卒業後に専門学校でそのための勉強をしたのですが、結局はファッションの道に進まず、社会人になりました。その後、27歳で結婚し29才で出産して、子どもができてからは見様見真似で赤ちゃん用の靴を編んだり、ベビー服を縫ったりしていました。もともと手芸は好きだし、手先は器用なほうなので、本を見ながら作れば何となく、それなりに納得のいく作品ができるんです。 子どもが小学校に入学して、時間にゆとりができたとき、「せっかく時間があるんだから、何か新しいことに挑戦してみよう」と書店に出かけ、見つけたのが森ゆきこさんの『アイシングクッキー&カップケーキの本』(日本文芸社)でした。そのかわいらしさにひと目で釘付けになり、「私も作ってみたい!」と、すぐに購入しました。
  • S 実際にアイシングクッキーを作ってみて、いかがでしたか?
    はるやまさん それが、本当に難しくて!(笑) 本に書かれている通りに作っても、思い通りの色にならず、きれいな線も描けず……。悔しくて猛練習しました。パートがお休みの日は、娘を学校に送り出してから練習を始めて、気がつけば娘が帰ってくるまで食事も忘れていたこともあります。夜になっても、また練習。そのうち、本に書かれていなかったコツもわかりだして。オリジナルの作品ができるようになってくると、作るのがどんどん楽しくなっていきました。 作品は、インターネットの写真投稿サイトにアップして友人に見てもらったりしていたのですが、そのうち友人のケーキ屋さんから注文されるようになったり、地元の手作り市に出店してみないかと誘われたりするようになりました。それで思い切ってパートをやめて、アイシングクッキー作りに専念することにしたんです。
  • ハレの日を彩るアイシングクッキー

    S これまで制作された中で、とくに印象に残っている作品はどれでしょうか?
    はるやまさん 鳥のモチーフは気に入っていて、よく作ります。中でもオカメインコは、私が初めて型から作ってデザインしたものなので愛着もありますし、今もよくご注文をいただくほど人気があります。また、友人に「お正月用におめでたいモチーフを作って」と頼まれたのをきっかけに、和のモチーフにも興味をもつようになり、作り始めたのが、日本各地に伝わる民芸品をデザインした「郷土玩具シリーズ」です。日本の郷土玩具はどれも個性的で、すごくかわいらしいんです。それを、立体と平面の中間であるアイシングクッキーで表現するのは、難しいけれど、とても楽しい挑戦です。 一般に、アイシングクッキーというとハートやお花、レースのような繊細でロマンティックなモチーフを思い浮かべる方が多いですよね。でも私の場合、そういった先入観はなく、自分が「作ってみたい!」と思ったら何でも作ってしまいます。そんな自由なところ、失敗しても食べたらおしまい、という潔さも気に入っています。
  • S アイシングクッキーは、プレゼントにもぴったりですね。
    はるやまさん 例えば、結婚式用に新郎新婦の似顔絵とペットを描いたウェルカムボードや、ゲストへのプチギフトを制作することもあります。ほかにも、七五三やご出産のお祝い用にというご注文もあります。私のアイシングクッキーが、いろいろな方の大切なシーンに参加させていただけるのは本当にうれしいし、光栄です。 それに、アイシングクッキーはちょっとしたプレゼントやお土産にしても、すごく喜ばれるんですよ。普通のクッキーでももちろんおいしいけれど、アイシングに気持ちを込めてメッセージや絵を描いたら、贈られた方はもっと喜んでくれるはずですし、印象的な贈り物として覚えていてくれるはずです。 アイシングクッキーの材料は身近なものばかりですし、自由に作り手の想いを表現できます。母の日や父の日、お誕生日や家族の記念日に、身近な方へのプレゼントとしてぜひ作ってみてほしいですね。今から練習すれば、ハロウィンやクリスマスにも間に合いますよ。

    上:好きな形を紙などに描き、それに添ってクッキー生地を切り抜けば、好みの形のクッキーができる。 下:アイシングの色づけに使う食品色素。ほんの少し混ぜるだけで、色とりどりのアイシングができる。

  • 左:おなじみの食器も、アイシングクッキーになるとなぜか新鮮。真っ赤な琺瑯のポットや、湯呑み茶碗のつやがかわいらしく表現されている。 右:メッセージを描き込んだアイシングクッキーは、プレゼントしたら、箱を開けた瞬間に歓声が上がりそう。 cTrigo et Cana

  • 【取材を終えて】
    カラフルなアイシングで、焼き立てのクッキーにかわいい小鳥を描くはるやまさんの指先はまさに魔法の杖のよう。クッキーの輪郭に沿って細い輪郭線を描く作業では、こちらも緊張感につい息を止めながら、うっとり見とれてしまいました。最初から美しく仕上げるのは難しそうだけれど、すごく面白そう! 「アイシングクッキーの魅力は、作って楽しく、食べたらまたおいしいところです」というはるやまさんの言葉を信じて、私もクッキー作りから挑戦してみたくなりました。上手にできたらお友達にプレゼントして、びっくりさせてみたいです。
    はるやまさんの新刊「みんげいクッキー」では、47都道府県の郷土玩具をモチーフとしたアイシングクッキーの作り方が紹介されています。クッキー生地やアイシングのレシピ、クッキーの型紙、基本の作り方までていねいに紹介されているので、初心者でも楽しく作れます。 「みんげいクッキー」 Trigo et Cana著(誠文堂新光社) 定価 本体1400円+税
    クレジット
    取材協力:Trigo et Cana
    取材・文:市原淳子 
    写真:疋田千里