• 6月号READ特集
    「心を育む 木のおもちゃ」

    赤ちゃんは、お母さんが差し出す小指を一生けんめい握ります。 その小さな手が次につかむのには、 木のおもちゃがいいかもしれません。 握って、積んで、転がして…… 軽くて丈夫で、自然な手触りをもつ木のおもちゃは 投げたり、しゃぶったりしても大丈夫。 そんな木のおもちゃが今、見直されています。

  • (プロフィール)
    野出正和さん/Toyクリエイター
    1996年、長男の誕生をきっかけに異業種からToyクリエーター(おもちゃ作家)へと転身。木工玩具を中心に、独自のセンスとアイディアで数々の大ヒットおもちゃを生み出している。毎年ドイツで開催される「シュピールヴァーレンメッセ(国際的な玩具の見本市)」では、日本人最多の7作品がヨーロッパの優良玩具「Spiel gut」に認定。テレビでは「TVチャンピオン」(テレビ東京系列)の「コロコロからくり装置王選手権」優勝など、さまざまな番組に出演している。著書は「ちいさなことで調子にのろう!」(クレヨンハウス)ほか。

    http://www.muku-studio.com/

    イベントなどに出かけた先で子どもたちを喜ばせようと、野出さんは愛車にシャボン玉発生装置を取り付けた。

  • ーー赤ちゃんが握りやすいガラガラ

    SHIMICOM、以下S まず、アイシングとは何ですか?
    SHIMICOM、以下S 木のおもちゃには、どんな種類がありますか?
    野出さん 年齢が小さい順に考えるとまず、おしゃぶりやガラガラのような「握る」おもちゃがあります。赤ちゃんは本能的に何かを握ろうとします。ですから生後間もない赤ちゃんでも握れるように、大人の小指と同じくらいの太さのガラガラを作ったことがあります。
    その次は、積み木など、「積む・組み立てる」もの。これは工夫次第でいろいろな遊び方ができるので、2歳頃から6歳頃まで、幅広い年代のお子さんに人気があります。ほかには、コマのように回転させたり、ボールのように転がしたりして遊ぶ「動く」おもちゃがあります。
    S 材料には、どんな種類の木が使われていますか?
    野出さん 例えば、耐久性が求められるおもちゃには固くて緻密なブナやカエデなどの広葉樹を使います。それに対して、子どもが手に持って遊ぶおもちゃは軽い方がいいので、シナやミズキなどの針葉樹が向いています。木によって色がちがうので、白木を生かしたおもちゃも美しいですね。
  • S 子どもたちは、木のおもちゃでどのように遊びますか?。
    野出さん もう、夢中になって遊んでくれます!  木のおもちゃは、プラスチックや金属など、他の素材で作られるおもちゃに比べて単純ですし、遊び方のルールもありません。ですから子どもたちは自分の心と頭を働かせて、自由に遊び方を考え出すことができるんです。 例えば、僕が15年ほど前に作った「ならべっこ」は、ポケットサイズの四角いフレームの中に黄色・青・白・赤の玉が4つずつ入っているだけの単純なおもちゃですが、赤ちゃんは縁を握ってガラガラとして使えるし、もう少し大きくなれば玉を動かして遊べます。3歳くらいからは「たてに色をそろえよう」「よこ一列を同じ色に」など、自分でルールを決めて遊び始めるんですね。そうやって自分たちで遊び方を生み出すことこそが、子どもたちにとって本当の“遊び”だと思うんです。
  • 大ヒットおもちゃ「ninja」が生まれるまで

    S 積み木といえば三角錐や立方体のブロックが一般的ですが、野出さんの積み木「ninja(にんじゃ)」は、人の形をしているところがユニークですね。
    野出さん 「ninja」は最初から積み木にしようと思って作ったわけではなく、ちょっとしたひらめきから生まれたものです。あるとき、木のキーホルダーを制作することになり、スタッフ2人に「10cm四方の板で何が作れるか考えて」と試作を頼みました。ところが、2人があれこれアイディアを出し合っているのを見ていたら、やっぱり自分も作りたくなって、糸鋸(いとのこ)で人の形を切り出したんです。 それを見たスタッフが「これが何個かあったら面白く遊べそう」というので、同じものを10個ほど作って保育園で試してもらったところ、子どもたちが夢中になって遊んでくれました。もともと遊び方のルールなどありませんから、勝手に積んだり崩したり、いろんな並べ方をしてみたり、つなげたり、ドミノをしたり……。単純なおもちゃだからこそ、自由に遊ぶことができたのだと思います。子どもの発想力って、すごいですね。

    左は野出さんが思いつきで作った試作品。このときは目があった。右は現在の「ninja」。

  • うまくバランスを取りながら何人も重ねたり(左上、右下)、頭と足の間のカーブを合わせてつないだり(右上)、たくさん並べて分身の術やドミノ遊びをしたり(左下)。アイディア次第でいく通りもの遊び方を生み出せる「ninja」。

  • 輝いている親父の背中を我が子に見せたい!

    S Toyクリエイター(おもちゃ作家)になったきっかけを教えてください。
    野出さん 子どもの頃の夢は保育士か小学校の先生になることで、保育の専門学校に入ったのですが、父が亡くなったために2週間で学校をやめて就職したんです。その後、起業して社長になり、結婚して長男が生まれました。傍目には順風満帆に見えていたかもしれませんが、自分としては保育士になるという夢が途絶えたまま、どこか満たされない部分があったんでしょうね。長男が生まれたときに「輝いていない親父の背中を我が子に見せるわけにはいかない」と発奮(笑)。 そこで思いついたのが、木のおもちゃを作ることでした。なにしろ僕は子どもの頃から図工は得意だし、子どもを相手にするのも大好き。「木ならホームセンターに売っているし、木工の機材は扱えるから」と安易に考え、さっさと会社をやめてしまったんです。それからアパートの1室をアトリエにしてお手本もないまま、糸鋸とドリルで木のおもちゃを作り始めました。。

    「TVチャンピオン」で優勝しただけあって、糸鋸の扱いは手慣れたもの。

  • S Toyクリエイターになるきっかけは、お子さんの誕生だったんですね。
    野出さん はい。でも当時はToyクリエイターという職業があることさえ知りませんでした(笑)。販売の知識も売り込みの経験もありませんから、せっせと作ったおもちゃを持っては、地道に近所の保育園や幼稚園を200軒ほど回りましたが、1つも売れなくて。このままでいいのだろうかと悩みましたが、そのうち、話を聞いてくれた園長先生の1人が、先生どうしの会合や研修会に招いてくれるようになって、少しずつ売れ始めたんです。さらに、神奈川県の小田原市にある木工所さんに協力してもらえるようになり、ようやく自分の思い描くおもちゃが作れるようになりました。 今では全国のイベントや講習会に呼ばれて、お子さんたちと一緒に遊んだり、工作教室を開いたりしています。
    S 野出さんのこれからの夢を教えてください。
    野出さん いつか自分が作ったおもちゃが、けん玉やヨーヨーのような伝承玩具になることです。誰が発明したかはわからないけれど、誰もが子どもの頃に一度は遊んだことがある、そんなおもちゃになって、世界中の子どもが遊んでくれたら最高ですね。
  • 「木のおもちゃの作り方をお見せしましょうか」と野出さんがひらめきで作り始めたおもちゃ。糸鋸で人の形を切り抜き、組み合わせてみたら「カエルみたいですね、これはいろんな遊び方ができそう……」と、遊び方のアイディアがどんどん生まれるようだ。

  • 【取材を終えて】
    野出さんがテーブルに「ninja」を並べ始めました。「まず、ninjaを全部1列に並べて、斜めにずらして『分身の術』! 組み体操のように積んで、次はぐるりと円を作って……」。次から次へと新しい遊びを見せてくれる野出さんご自身が、まるで子どものように楽しそう。私も「ninja」を手に取り、「あ、ビー玉で弾いて的当てもできますね!」なんて、新しい遊びを発見してはしゃいでしまいました。木ならではの手触りと温もりは、安心感があって、どこか懐かしい感触です。赤ちゃんから子ども、そして大人まで、素朴な木のおもちゃに夢中になってしまう理由がわかったような気がします。
    <取材先紹介>
    無垢工房 http://www.muku-studio.com/
         ?090-7215-4868
    クレジット
    取材協力:無垢工房
    取材・文:市原淳子 
    写真:押山智良