• 7月号READ特集
    「夏の体をいたわるあま酒」

    梅雨が明けると、まもなく本格的な夏が始まります。 この季節の季語のひとつが「あま酒」。 江戸時代には、夏になるとあま酒売りが登場し 天秤棒を担いで売り歩く姿が見られたと言います。 あま酒は、たくさんの栄養がバランスよく含まれた、 いわば“飲む点滴”。 この夏は、私たちも江戸時代の庶民にならって あま酒で、猛暑をしのいでみませんか?

  • (プロフィール)
    舘野真知子さん/発酵料理研究家・管理栄養士
    栃木県の8代続く農家の生まれ。アイルランドに料理留学後、レストラン「六本木農園」初代グランシェフを経て料理研究家として独立。あま酒をはじめ、塩麹や味噌、ヨーグルトなど発酵食品について造詣が深く、NHK「きょうの料理」などのテレビ番組や雑誌、イベントなどで活躍。2015年にはイタリア・ミラノ万博関連イベントで和食を指導。和食を通じて国際交流を行う「Kitchen Noppon」、丸の内朝大学などに登壇。著書は「おいしく食べるあま酒レシピ」(東邦出版)ほか。

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  • ーー夏にぴったりのエナジードリンク、あま酒

    SHIMICOM、以下S 江戸時代の人はなぜ、夏にあま酒を飲んだのでしょうか?
    舘野さん あま酒作りはもともと、酒屋さんの夏の副業でした。日本酒の仕込みは寒い時期に済ませてしまいますから、酒屋さんは夏は暇。そんな時期に、手軽に作れるあま酒はうってつけの商品だったのですね。おかゆを炊いて麹(こうじ)を混ぜておけば一晩でできるあま酒は「一夜酒(ひとよざけ)」とも呼ばれました。酒屋さんが作っていたから「酒」という字はつきますが、本来はノンアルコールの飲み物なんですよ。  あま酒には、脳の栄養になるブドウ糖、エネルギーを作るのに欠かせないビタミンB群、必須アミノ酸(※)がバランスよく含まれています。また、乳酸菌やオリゴ糖、食物繊維にはおなかの調子を整える働きがあります。麹のおかげで栄養素が分解され、消化・吸収しやすくなっていますから、胃腸が疲れ気味な夏にはぴったりなんです。

    ※必須アミノ酸=人間が体内で作れないため、食品から補給する必要のある8種類のアミノ酸のこと。あま酒にはそのがすべて含まれている。

  • あま酒は日本古来の発酵食品

    S あま酒は、誰でも手作りできるのでしょうか?
    舘野さん 保温ポットか炊飯器があれば、簡単にできますよ! 材料は、もち米と米麹、それに水だけ。麹菌は60℃前後で最もよく働きます。温度管理が重要なので、温度計だけは準備してください(分量と詳しい作り方は次ページを参照)。 麹とは、カビの一種である麹菌をお米などに繁殖させたものです。麹菌は日本固有のもので、「国菌(※)」に認定されるほど貴重なものなんですよ。麹にはでんぷんやたんぱく質を分解し、体に吸収されやすく、おいしくする作用があります。この力を利用して、日本人はあま酒だけではなく、日本酒や醤油、味噌、本みりん、酢、塩麹など、日本料理に欠かせない食材を作ってきました。このなかでもあま酒は、味噌などに比べて簡単に手作りできますから、麹の力で生まれた栄養やおいしさを味わうにはぴったりの食品なんです。

    ※国菌……日本の国花が桜、国鳥がキジのように、2006年に日本醸造学会が麹菌を国菌に認定した。

  • 基本のあま酒

    材料
    約500ml分
    もち米 1/2合
    水   300ml
    追加水 100ml
    生麹  100g(乾燥麹の場合は70g)
    作り方
    1 もち米をさっと洗い、分量の水に浸水し、おかゆを炊く。
    2 ①に追加水(常温)を加え、ヘラなどで混ぜる。温度が62?63℃まで下がったら生麹を加え混ぜる。
    ※温度が下がりすぎたら、鍋に入れて弱火にかけ、60℃前後まで温める。
    1 ②を保温ポットに移し、約8時間保温する。
    ※ 気温が低い時期は4時間ほどたったら鍋に移し、弱火で60℃くらいまで温める。70℃以上になると麹菌が死んでしまうので注意。

    A:生麹は主に通販販売で入手できる。保存期間は冷蔵で1?2週間、冷凍で2か月が目安。乾燥麹は、スーパーなどで購入できる。保存期間は冷凍なら約1年。

    B:今回使った生麹(右)と、生麹を乾燥させた乾燥麹(左)。麹菌は生き物なので低温保存しても風味や色が変わることも。長期間の保存後は状態を確かめてから使うこと。

  • 左上/生麹も乾燥麹も、使う前に手でほぐすとダマにならない。右上/おかゆに追加水を加え、62?63℃に下がったら麹を加える。左下/おかゆに麹を混ぜた後、60℃ほどになったことを確認。右下/炊飯器で作る場合は、麹を混ぜた後、炊飯器に乾いた布巾をのせ、保温機能をオンにしたまま、蓋をあけた状態で8時間置く(60℃前後を保てる)。

  • 麹のあま酒と酒粕のあま酒

    S あま酒が好きになったきっかけを教えてください。
    舘野さん 私が子供の頃、実家のあたりではそれぞれの家庭で甘酒を手作りしていました。うちでは当時は、ガスでご飯を炊いてから保温庫に移すタイプの炊飯器を使っていました。祖母はそれでおかゆを炊いてよくあま酒を作ってくれましたし、祖母の友達も、あま酒を作ると保温庫ごとうちに持ってきて「たくさん作ったから飲んでよ」なんて、そのまま置いていくこともありました。私はそんなあま酒が大好きで、家族からも「あま酒が好物」と思われていたほどです。  ところが、母の代になってからあま酒の味が変わったため、私はあま酒が苦手になってしまったんです。実は、忙しかった母が作っていたのは米と麹ではなく、酒粕をお湯に溶き、砂糖を加えて作ったあま酒でした。あま酒には2種類あるなんて知らなかった私は、「大きくなったらあま酒が嫌いになった」と思い込んでしまったんです。
  • S 再びあま酒の魅力に気づいたきっかけは?
    舘野さん レストランで働いていたとき、農家や生産者の方と直接お話しする機会がよくありました。そんな中で出会ったのが、麹専門店の女将で、塩麹ブームの立役者もある浅利妙峰(あさりみょうほう)さんです。発酵の話をきっかけに親しくなり、「うちのあま酒を飲んでみてよ」とごちそうになったあま酒はまさに、祖母が作っていたあま酒の懐かしい味。それも、生まれて初めて「冷やしあま酒」としていただいたので、「こんな飲み方もあるんだ!」と感動してしまったんです。そのあとも妙峰さんに、麹の力や発酵食品の栄養について教えてもらううちに、これほどおいしくて体にいいものなのだからもっと多くの人に知ってほしいし、麹という文化を支えていかなければと思うようになりました。そこで、家庭で手作りする方法を考えるうちに思い出したのが、祖母の保温庫。それをヒントに保温ポットを使ったあま酒の作り方を思いついたんです。
  • -- 飲んでも、食べてもおいしいあま酒

    S あま酒を使ったレシピを教えてください。
    舘野さん 現在は、初詣などで飲む人が多いせいか、「あま酒は温めて飲むもの」と思われがちですが、冷やして飲むとすっきりしておいしいですよ。とくに暑い時期は、かき氷のシロップにするのもおすすめ。また、そのまま凍らせて、お風呂上りにシャーベットのように食べるのも最高です!  あま酒は砂糖やみりんなどの代わりに、調味料としても活躍します。例えば、あま酒に塩を加えると甘辛い塩麹のように使えますし、ドレッシングに加えるとコクが出ます。また、あま酒に含まれる麹には、肉や野菜を柔らかくする働きがあります。ですから、肉じゃがを作るとき、じゃがいもを少し崩れ気味にほろっと仕上げたいときはあま酒。じゃがいもの形をしっかり残し、照りを出したいときはみりん。そんな風に使い分けるといいですね。。

    あま酒は、ビタミンC豊富な野菜やくだもの、動物性たんぱく質の含まれた肉や魚、乳製品などと組み合わせるとさらにバランスがよくなり、夏バテ気味の体に栄養を補給できる。

  • 牛乳代わりにあま酒を使ったパンケーキはもっちりとして、食べ応えも充分。食欲のないときでも、これならペロリと平らげられそう!

  • 【取材を終えて】
    おかゆを炊いて、麹を混ぜて保温ポットに入れるだけ。こんなに簡単にあま酒ができるなんて、知りませんでした。できあがったあま酒は、手作りならではの優しい味。思いのほか甘みが強く、みりんや砂糖の代わりとして料理に使えるというのも納得です。舘野さんによると、「あま酒は栄養バランスがとてもいいですが、ビタミンC豊富な野菜やくだもの、動物性たんぱく質を含む肉や魚、卵や乳製品と組み合わせるとパーフェクト!」とのこと。ヨーグルト感覚でくだものと一緒に食べたり、お肉を煮るときに使ったりするのもおいしそう。凍らせてアイスクリームのようにも食べてみたい……。今年の夏は懐かしいのに新しい、あま酒のおいしさにはまってしまいそうです。
    <書籍紹介>
    舘野さんの著書「おいしく食べるあま酒レシピ」では、基本のあま酒のほか、玄米やさつまいも、かぼちゃなどを使ったあま酒のバリエーションから、あま酒を使ったスイーツや調味料、料理のレシピなどがたっぷり紹介されています。
    「おいしく食べるあま酒レシピ」
    舘野真知子著
    東邦出版
    定価1300円+税
    クレジット
    取材・文:市原淳子 
    写真:押山智良