• SHIMICOM11月号
    「愛着をつなぐ。味わいを楽しむ」

    モノを消費し、壊れたら捨てる。 そんな時代を経て、気に入った者を長く使い、 日々を丁寧に暮らしたいを考える人々が増えています。 その思いに目を向けた時、浮かび上がってくるのが、 いま女性たちの中で静かなブームとなっている 「金繕い」でした。 壊れた器を修繕する技術に、今なぜ惹かれるのか。 その魅力に触れてみませんか? ※1 「金継ぎ」という言い方もありますが、金継ぎは一部の技術をさすもので、 正式名称は「金繕い」です。本号では「金繕い」という表記で統一します。

  • 〔プロフィール〕

    白鳥 由加利(しらとり ゆかり)/金繕い工芸作家
    神奈川県横浜市出身。美術大学卒業後、プロダクトデザイン・インテリア関係の仕事に携わる。
    金繕いとの出会いを機に工芸家・原一菜氏に師事。現在は金繕い請負のかたわら工房やカルチャーセンターで金繕いを始め工芸を教えている。 一菜会公認会員。金繕い教室「藤那海工房」主宰。 著書に「金繕いの本」(グラフィス)がある。

    http://www.shiratoriyukari.flop.jp/

  • 10年前はあまり聞いたことがなかった「金繕い」という言葉。 最近では、大手百貨店で作品展が開催されたり、カルチャーセンターに講座ができるなど、目にする機会が増えています。 今回は、金繕い工芸作家・白鳥由加利さんに、その魅力について伺ってきました。

    SHIMICOM、以下S そもそも「金繕い」とは何ですか?
    白鳥さん 「金繕い」は、欠損した部分を「漆」を使ってつなぎ合わせ。その上を金で蒔絵を施す技術で、日本独特の文化です。
    S いつ頃からあった技術なんですか?
    白鳥さん 実は縄文時代から、日本人が壊れたモノを直して使っていたことがわかっています。矢じりや土器を漆で修繕した、金繕いの原形とも言える道具が、遺跡から発見されています。「金繕い」そのものは、室町時代に茶道の隆盛とともに発展しました。当時、日本にはまだ茶席に出せる道具を作る技術がなく、中国から輸入された青磁・天目・白磁などの貴重な器を直して、大切に使っていたんですね。

  • 大切な器を直したい。はじまりは、その気持ちから

    S 金繕いというと、骨董に施されるイメージがありました。
    白鳥さん たしかに近代までは、高価なものしか頼めないという暗黙も了解がありました。職人に依頼するルートも少数の数寄者(風流人、特に茶の湯を趣味とする人)などに限られたという事情もあって、広く一般に知られることがなかったんです。私が始めた頃は「金繕い」と言っても「何のこと?」という感じで。 本当にここ数年ですね。皆さんに知っていただけるようになったのは。
    S 「金繕い」との出会いを教えてください。
    白鳥さん 私は旅先で窯元をめぐり、気に入った器を購入するのを楽しみにしていました。その器の一つで、とても大切に使っていたモノが欠けてしまった時に、たまたま雑誌で金繕いをされている方の記事を読み、初めて「金繕い」という技術を知ったんです。 思い切ってその方に繕いを依頼したところ、使えるようになっただけでなく、全く別の魅力、美しさを持って戻ってきたことに感動しました。

    金繕いの道を歩むきっかけとなった備前焼の器。今でも愛用されています。

  • 生まれた「傷」を、新しい「姿」として愛でる。

    S 「金繕い」の魅力とは、何でしょうか。
    白鳥さん 破損したモノが再び使えるようになるだけでなく、全く新しい表情を持った器となって蘇ることですね。 陶磁器は中国から伝わりましたが、中国には修繕して使うという発送がありません。一方ヨーロッパでは見た目が優先で、直す時に傷を完全にわからなくしてしまい、使用することは考えていません。 日本はモノが壊れるのは必然という考え方があり、「金繕い」は、壊れた事実を受け止めて、器を元より良い形で生まれ変わらせ、使いたくなるモノにする。世界に誇れる文化だと思います。
    S なぜ日本に根づいたんでしょう?
    白鳥さん 日本人にはモノを慈しむ心がありますよね。傷も一つの個性と考え、直すことで得た新しい姿も、味わいとして楽しむことができる。これは単に「もったいない」とか「ミニマリズム」という言葉では包括できない、日本人のDNAに刻まれたもののように感じます。
  • 金繕いで、新しい魅力をまとった器たち
    小皿の呼び継ぎ
    本体とは違う破片を組み合わせて修復される 日本人の感性から生まれた技法。合わせ方に個性がでる。
    薩摩切子のひびを繕う
    グラスのひびを止め、修復した後に蒔絵したもの 赤の切子に新しい魅力を生んでいる
    藤を蒔絵する
    2つに割れたカップを接合し、接合の線上に藤を蒔絵したもの。内側は和紙で補強し、金箔で仕上げている。
    備前焼フリーカップの割れを繕う
    割れてしまったフリーカップの破片を接着。その上に蒔絵し、新しい表情に生まれ変わった。

  • 傷さえも魅力に変えてしまう金繕い。実際はどのような工程で行われるのでしょう?

    S 「漆」というと、塗料のイメージがありました。
    白鳥さん 「金繕い」では接着に使います。日本人が「漆」を塗料としてだけでなく、接着剤としても充填剤としても使いこなせる技術を持っていたことも、「金繕い」が生まれた背景のひとつですね。 「本漆」はかぶれの問題があるので、初めてなら「新うるし」が扱いやすいと思います。釉薬の上にも乗るので、蒔絵も描けますよ。
    S 修復の種類などはあるのでしょうか?
    白鳥さん 壊れ方によって、大きく「ほつれ・欠け」「ひび・ニュウ(こまかなひび」「割れ」の3つに分類されます。それぞれ「欠け」なら埋める。「ひび」は止める、「割れ」は接着する繕いを行って、欠損が埋まったところで仕上げの蒔絵を行います。

  • 実際に、欠けた器を使って、金繕いを行う際の工程を見せていただきました。

  • S どんなところに難しさや面白みを感じますか?
    白鳥さん やはり、全く同じ傷はない。ということにつきますね。壊れ方は一つ一つ全部違うので、その都度工夫を求められるところが、奥深さでもあり、面白さでもあります。 ただ、その器の持っている品位を損なわないこと、日常の使用に耐え、かつ美しいことを大切にして、出会った器を誠実に直していきたいと思います。
    S 作品づくりは、壊れた器を探してくるんですか?
    白鳥さん そういう場合もあります。骨董市に、ぐるりと一周するようにひびが入った蕎麦猪口が出品されていたのですが、その壊れ方が面白いと思って購入し、自分で直しました。 もちろん自分の器も直します。一大決心をして購入したお気に入りの薩摩切子が欠けてしまった時も直しました。ガラスは反対側が助けてしまうのが難しいところですが、内側の直した部分を金箔で隠しながら仕上げました。切子の美しさはそのままに、新しい魅力を出せたと思います。

    縁の割れを接合部に蒔絵し、藤の花を描き加えたもの。

    骨董市で購入した蕎麦猪口

  • 自分で繕うことで、特別なモノになる喜び。

    S 教室似通われる方も増えてきたとか。
    白鳥さん 50〜60代の女性が多かったのですが、ここ数年は自分のスタイルやこだわりを持って暮らす20〜30代の女性も増えましたね。モノを使い捨てる経験をして、もう少し丁寧に暮らしたくなってきあというか。簡単・早い・経済的といったものを追求するだけだは得られない「丁寧に暮らす」という日本人の原点に戻った気がします。
    S 暮らしの中で「金繕い」をどのように楽しむとでしょう。
    白鳥さん 取れたボタンを縫い直すように、器を直すことを普通のこととして楽しんでいただければと思います。そうすれば大切だからとしまっておくのではなく、使って楽しめるようになります。 せわしない毎日とは逆に、「金繕い」は手間と時間をかけてゆっくり作業が進みます。自分でやってみると、ただひたすら一つの器と向き合って作業する時間は、無になれて、自分をリセットする時間にもなるはずです。 ぜひご自分でもチャレンジしてほしいですね。

    緑を金繕いした器。多肉植物の寄せ植え用として、おしゃれに利用している。

  • {取材を終えて}
    金繕いを施された器には、持ち手の愛着や日々の暮らしとの向き合い方が見えてくるようでした。 気に入ったものを、長く使っていく。そんな丁寧な暮らしがしたいと改めて思った取材でした。
    取材協力:
    白鳥 由加利
    取材・文:
    宮代 幸枝
    写真:
    中根佑子

    「大切なうつわを直したい 金繕いの本」 著:白鳥 由加利 監修;原 一菜 発行:株式会社グラフィス 定価:本体1,800円(税別) 金繕いの歴史や基礎知識をはじめ。必要な道具や工程が丁寧に解説されていて、思わずやってみたくなる。 掲載されている器はどれも味わいと美しさに満ちていて、思わず引き込まれてしまいます、