• SHIMICOM 7月号
    「梅が連れてくる季節」

    殺菌、解毒作用に疲労回復。 古くから人々に親しまれてきた梅干しは、 汗をかいた体に必要な塩分を与え、 暑さで失われがちな食欲を増進してくれる、 日本の夏を乗り切るための知恵。 今回は、そんなの魅力と、 少量でも漬けられる梅干しをご紹介します。

  • 〔プロフィール〕

    山田 奈美さん/薬膳料理家、食養研究家、国際中医薬膳師、「食べごと研究所」主宰
    東京薬膳研究所の武鈴子氏に師事し、薬膳理論や食養法について学ぶ。雑誌・WEBなどで発酵食や薬膳レシピの制作、解説を行うとともに、神奈川県葉山町のアトリエ「古家1681」で発酵教室、和の薬膳教室などのワークショップを開催し、日本の食文化を継承する活動を行う。

    ◎http://tabegoto.com

  • 心を豊かにしてくれる、古民家での暮らし。

    葉っぱの緑、土の匂い、鳥のさえずり、風の音。 別荘地・葉山での暮らしは、時の流れもゆっくり。

    SHIMICOM(以下S)かなり年季が入ったお宅ですね。
    山田さん 築90年です。緑がいっぱいで気持ち良くて、出会って一目で気に入ってお借りしました。私は昔から地面が近くないと生活できないタイプなので、東京で働いている時も一軒家を借りていました。また、都会っ子の夫も自然のある暮らしを渇望していたので、8年前にここ、葉山へ越してきたんです。
    S 葉山は海に山と、自然が豊かですね。
    山田さん 私は浜松出身で海も山もあるところで、祖母、母と受け継がれてきた食事をいただきながら育ちました。おやつも畑仕事をしていた祖母の採れたての野菜や、母の手作り菓子と素朴なものばかり。加工食品はいただかない家庭だったんです。だからきっと自然のある場所を求めていたんだと思います。こちらへ越してから、我が家には時計やカレンダーがなくなりました。東京で働いている時はスケジュールを埋めることで満足していましたが、今はこのゆったりとした時の流れに身を任せるのが心地よくて…。
    S 古民家に暮らすことで、生活リズムも変わったということですか。
    山田さん そうですね。祖母の母も保存食を作っていたと聞きましたし、実家では梅干し、ぬか漬け、お味噌と家族がいただくものはほとんどが手作りでした。当たり前の毎日の中で祖母や母に教わった食の大切さが、今の薬膳の仕事ともつながっているのかしれません。
  • 祖母、母の味が教えてくれたこと。

    S 薬膳との出会いについて教えてください。
    山田さん 私はもともと編集の仕事をしていたのですが、24歳の頃、師匠である武鈴子先生と出会い、「和食こそ薬膳」という先生の言葉に影響を受けてマンツーマンで教えていただくようになりました。一人暮らしをしていた頃も3畳ほどの区民農園を借りて野菜を育てたり、NPO団体を立ち上げて仲間と農業をしたりしていたので、以前から食に興味はあったんです。でも、西洋医学や栄養学にはあまり感じ入るところはなくて…。ただ、日本人の体質や気候風土を考えた食の組み合わせ、旬をいただく和食について薬膳の視点で見る先生のスタイルにはすんなりと共感できたんです。
    S それは、どんな考え方なのでしょう?
    山田さん 自然のリズムに沿うことが薬膳の基本の考え方です。朝、太陽が昇ったら起きて、夜、日が沈んだら眠る。大地の恵みに感謝しながら自分の手で育てたり、作ったりしたものをいただく。そんな当たり前の暮らしの中の食事、健康食と思ってもらえれば…。全体を見る東洋医学と部分的に見る西洋医学に差があるように、食も、生活全体を見つめるのと部分的に見るのとでは大きな差があらわれます。自然界と一体となって暮らすことで、その人らしい体や健康を作っていくという考え方です。
  • 梅干しは、毎年漬けて食べられるのは1年後。白梅漬けの他、しそで漬けた赤梅、小梅、カリカリ梅と、どれも代々受け継がれてきた漬け方で作られる。

  • 庭の梅の木の恵みを、家族でいただく幸せ。

    夏の足音が聞こえる頃、古民家の庭では梅が実をつけます。

    S こちらのお庭に立派な梅の木がありますね?
    山田さん いつ頃植えられたのかはわかりませんが、お家と一緒で樹齢も90年くらいでしょうか。幹は割れてしまっていますが、今でもちゃんと梅の実がなります。たくさんなる年とそうでない年がありますが、お手入れも剪定をする程度でほとんど何もしていないのに、家族の梅干しを作るには十分な実をつけて、毎年楽しませてくれます。収穫はだいたい6月初旬頃。採れるのは多い時で6kg、少ないと3kg程度なので、庭の梅は家庭でいただいています。そして、料理教室で使う梅は農家さんにお願いをして収穫させていただいています。
    S 梅の収穫や仕込みで、忙しいですね。
    山田さん 青梅が出たら毎年、なぜか緊張というか、ハラハラドキドキします。青梅が出るタイミングは毎年気温などによって違うので、出たらすぐ準備に取りかからなければと、ほんの少し焦る気持ちと、新しい梅干しを漬ける楽しみでワクワクするんです。
    S 梅干しにまつわる思い出はありますか? 山田さん いつも思い出すのが、祖母の漬けた梅干しの味ですね。柔らかくしっとりしていて、とにかくおいしかった。私は今でも土用干し※1した後に、あえて梅酢に戻してしっとりさせる祖母の梅干しの漬け方を実践しています。もちろん梅干しと梅酢を別々で保存してもいいのですが、ふっくらしっとり甘くておいしい梅干しもぜひ食べてみてほしいです。

    ※1 立秋(8月8、9日頃)の前に、三日三晩天日干しをする。

    梅の実はできるだけ木になったままで完熟させ、お天気の日にご主人と息子さんと三人揃って収穫。雨が続く梅雨時の作業だけに、収穫するタイミングが一番難しいのだとか。

  • スペースがなくてもできる! 密閉保存袋で作る簡単自家製梅干し。

    薬膳料理家・食養研究家の山田奈美さんに、 広いキッチン、ベランダがなくてもできる、白梅干しの作り方を教えていただきました。

    <材料>
    完熟梅 1kg 天然塩 120g(梅の12%) 竹串 密閉保存袋 ふきん

    ➀できるだけ傷のないきれいな梅の実を選び、水で洗って水分を拭き取る。

    ➁漬ける時にカビが生えるのを防ぐため、ヘタは竹串を使って取り除く。

    ➂まず密閉保存袋に軽く塩を入れてから、ヘタを取った梅の実を入れていく。この時使う塩はにがりなどを使っていない天然のものを使用する。

    ➃塩→梅の実→塩→梅の実と繰り返し袋に入れて、最後に残った塩をすべて入れる。

    ➄袋の中の空気を抜いて口を閉じ、袋の中の梅を平らにならす。

    ⑥1kg程度の重し(ペットボトル2本)を上に乗せて冷暗所に置く。この時、中に溜まっていく梅酢がこぼれないように袋の口は上に向ける。

    ⑦梅雨が明けて晴天が続きそうな日を選び、梅を取り出してざるに並べ、3日間土用干しをする。袋の梅酢は残しておく。

    ➇干した梅を梅酢が入った袋に戻して冷暗所で保存。これでしっとりふっくらした梅干しに。お好みによって梅干しと梅酢を別々で保管してもOK!梅酢は調味料などにも使えます。

  • 効用いろいろ、梅干しのチカラ。

    S ところで、こちらの「大ちゃん梅干し」とは何ですか?
    山田さん 息子(大ちゃん)の誕生年に収穫した梅の実100粒を漬けた祝い梅のことを、家族でそう呼んでいます。毎年誕生日に1個ずつ食べて、100歳まで長生きしてほしいという思いを込めて作りました。
    S 素敵ですね。息子さんも梅干し好きですか?
    山田さん 酸っぱいものは少し苦手なようですが、楽しみに食べてくれていますね。梅干しは50年でも100年でも保存がききますし、時間が経つほどおいしく、効能も高くなっていくので、この先も食べ続けてくれたらうれしいです。
    S おいしさや効能はどのように変化していくのですか?
    山田さん 1、2年目はとてもジューシーで、それ以降は徐々に梅の味が凝縮していきます。梅干しは漬けて3年くらい経ったほうが効能は高いと言われています。
    S 梅干しの効用というと主に殺菌、解毒作用ですよね?
    山田さん 他にも疲労回復、食欲増進などに効果があります。それにカルシウムの吸収をあげる効果もあります。水筒に水と梅干しを入れるだけで塩分とミネラルの補給になりますし、お腹を壊した時に練った梅をひと舐めするだけでも効果があるんです。
    S 梅干しの力って本当にすごいですね。
    山田さん ええ。梅干しには「体調の悪い時に梅を漬けるとカビが生えやすい」という言い伝えがあるのですが、それも先人の教え。家族みんなの健康を守るためには、まず自分自身の体を整えなければならないということなのでしょうね。梅干しは単に体にいいと言うだけではなく、日本人の暮らしになくてはならない先人の知恵が詰まっていると思います。
  • 梅はおしゃれなスイーツにも、 おもてなしのお茶菓子にもなる!

    赤じそジュースを使って作る、 「赤じそのグラニテ」
    <材料> 赤じそジュース 300ml 生姜(みじん切り)1片分 はちみつ 大さじ1 すだちの輪切り お好みで 穂じその実 お好みで
    <作り方> ①バットに赤じそジュースと水100ml、生姜、はちみつを加えて混ぜ合わせ、冷凍庫に入れる。 ➁全体が固まったらフォークでかき混ぜ、再び冷凍庫に入れる。これを2〜3回繰り返し、シャーベット状にする。 ➂器に盛り、お好みですだちの輪切りや穂じそを添える。
    夏の訪れを知らせる、 「青梅の甘露煮」
    <材料> 青梅 200g てんさい糖 160g 保存容器 竹串 針 10円玉 ガーゼ 鍋(銅製またはほうろう鍋か土鍋)
    <作り方> • 青梅を洗い、ふきんで水気をふき取る。竹串でヘタを取り除き、針をしっかり刺して細かい穴を20ヵ所程度あける。 • 鍋に梅を入れ、かぶる程度の水を加えて2〜4時間つける。 • ➁の鍋に10円玉を入れ、ガーゼで落としぶたをして、弱火にかける。 • 別の鍋にてんさい糖と水2カップを入れ、中火にかけ、てんさい糖が溶けたら弱火にし、水気を切った梅を静かに並べる。ふつふつとしてきたら火を止める。 • 冷めるまでそのまま放置。冷めたらバットにそっと移してガーゼをかぶせる。残りの液を軽く煮詰め、粗熱が取れたら、ガーゼの上から梅がかぶるくらいまで静かに注ぐ。2日以上置いてから食べるのがおすすめ。

    ふっくらぷるんと上品な甘露煮はおもてなしの一品に。

  • 大人顔のドリンクやデザートにも、 梅干しパワーたっぷり。

    甘酸っぱい香りがたまらない、目にも鮮やかな赤じそジュース。茎も、傷んだ葉も余すところなく使い切るのが山田さん流。日持ちは約1カ月。

    赤じその茎や葉を使った 「赤じそジュース」
    <材料> 赤じそ 300g てんさい糖 280〜380g 純米酢 170g
    <作り方> • 赤じその枝、茎、葉はよく洗い、水気を切る。 • 鍋に①と水1.5Lを入れて中火にかけ、20分ほどじっくり煮出す。枝葉の色素が抜けて緑色になったら火を止める。葉だけで煮る場合は7〜8分でOK。 • ざるでこして、枝葉を取り除き、鍋に戻す。 • てんさい糖を入れて中火にかけ、溶けたら火を止める。粗熱が取れたら酢を加え、冷めたら保存容器に移し、冷蔵後で保存する。
    「大人の梅ゼリー」
    <材料> 梅酒 125ml 寒天(粉末)2g 青梅の甘露煮 2個
    <作り方> • 水175mlと寒天を小鍋に入れて中火にかけ、沸いてから2〜3分ほど混ぜながら、寒天を煮溶かし、火を止めて梅酒を加える。 • 容器に①を流し込み、青梅の甘露煮を落として、冷やし固める。梅酒漬けの梅を入れてもOK。

    梅酒と甘露煮を使ったゼリーは、ふんわりお酒の香りが漂う大人のスイーツ。

  • {編集後記}
    <コラム>
    薬膳料理家・食養研究家の山田奈美さんご一家の古民家での暮らしと、 梅干しの漬け方、活用法をはじめとしたさまざまな梅しごとの魅力を伝える本です。ぜひお近くの書店でご覧ください。
    書籍名 :
    旬を楽しむ梅しごと 梅干しから梅酒、毎日の梅レシピまで
    著者名 :
    山田奈美
    出版社名:
    家の光協会
    定価  :
    本体1,000円+税

    取材協力:古家1681
    文:久武むく
    撮影:中根佑子